「労災隠し?10年間で58万件 患者自己負担 40 億円」を読んで

(2000年11月11日の毎日新聞)

加藤整形外科 加藤勝洋


患者、事業主の方へ

労災かくしはやめてください、労災かくしはよくありません 。

労災隠しによって、医師と患者の良好な関係がおかしくなります。医師は、法を守る義務、善良な管理者としての職務上の注意義務があります。医療は信頼によってなりたっています。信頼がくずれることは困ります。 医師は、患者の意思を尊重し、患者の立場に立って考え信頼を得て、その良好な関係 を持つことが大切ですが、常に職業人(医師)としての冷静さと客観性を失わな いことも大切なのです。医師には、医の倫理を遵守すべきことが求められています。守秘義務はその一つでありますが、一方、医療法で定められた届け出義務が存在しています。法を守る義務、善良な管理者としての職務上の注意義務があることを、ご理解をお願いします。

健康保険被保険者証の注意事項の7を読んでください。 「不正にこの証を使用した者は、刑法により詐欺罪として懲役の処分を受けます。」 と記載されています。 あきらかに労災事故であるとき 労災事故とわかる状況であったのに、これを偽って社会保険で診療を求めることは、 それを求めたのが事業主またはその意に従った労働者であるときは、いわゆる労災隠 しとして、労働安全衛生法違反により、その事業主が処罰されます。本来健康保険に より診療できないのに、不正行為により保険給付を受けたときは、それを知りながら 証明や診断書を記載した医師や医療機関は連帯して健保法上その責任を問われること になります。また、医師には善良な管理者としての職務上の注意義務があるので、労災事故とわ かる状況のものを健保で診療することは注意義務違反となります。

 今日の事情では、その場は労災隠しができたとしても内部告発等により必ずといっ てよいほど後日に発覚している状況である。後日発覚した場合には責任が重くなる し、その修正が大変なことになるのです。正しい保険(労災保険)で診療を行うよう にしてください。 労災であるものを会社が自費診療を求めた場合も、その取扱いの原則は上記のとうりであり、被災労働者の保護のためにも労災保険による診療とすべきである。また、前述のとおり今日の時代は内部告発時代であり、必ず不正は発覚すると心得て対処することが大事である。どうしても、会社や患者が、自費診療を求められたなら、医師は労災扱いとして請求(現金)することになります。


アンケート調査

約2年前に県内の医師にアンケート調査をお願いしました。それ以来医師の対処について私の県では、以下のように理解されていると思っています。

(1)労災とわかる状況であるのに、これを偽って社会保険での診療を求められた場合

a:患者さんのいうとうり社会保険とする。

b:同行した事業主または会社のいうとおりにする。

c:自費診療とする。

d:労災事故ならば労災保険による診療とする。

もし(d)を○印された方にさらにお聞きします。

労災用紙(5号様式など)を提出されない場合は

イ:患者さんのいうとうり社会保険にする。

ロ:同行した事業主または会社のいうとおりにする。

ハ:自費診療とする。

ニ:労災としての請求計算で現金を支払ってもらう。

アンケートの結果・・・81名のうち56名から回答あり。

a:19 b:6 c:6 d:25 イ:3 ロ:4 ハ:10 ニ:7 となっています。 私は、d、ニです。

あきらかな労災は労災として扱うべきです。その取扱いの原則は上記に述べたごとくです。


対処のむずか しさがこの結果になっているのか?

正しく保険証を使用しているかどうか、労災保険を使用すべきかどうか、また労災と して判断しずらい判断できないものなのかなど、職業人(医師)として対処しなけれ ばならないが、しかし判断に苦慮することもあります。第一線の医師には決定権はありま せん。そのため「労災なのか、労災でないかは、患者と会社と健康保険組合(社会保 険事務所)と労働基準局との4者でお話してください」と患者に話しをすることにな ります。

私は、医師としての対処は以下の3点のように思っています。

1)あきらかな労災事故は、労災としてください

2)正しく保険証を使用してください 労災なのか、労災でないかは、患者と会社と社会保険事務所と労働基準局と の4者で話し合ってください

3)労災事故を、どうしても会社や患者が、自費として診療費を支払うと申し出られたら、労災扱いとして、請求(現金)します。


さて、労災隠し?の記事について 意見を示したいとしたが、締めくくりにいいたい

開業医の私には、ただ一生懸命治療に専念したいと

以上の意見は以下の毎日新聞記事に対する意見です


「労災隠し?10年間で58万件 患者自己負担 40 億円」 (2000年11月11日の毎日新聞)

労災隠し?: 10年間で58万件 患者自己負担40億円

 仕事上の理由で負傷し治療するなどの際、本来は労災保険の適用を申請すべきな のに、健康保険扱いになっていたケースが、過去10年間に約58万件あることが11 日、社会保険庁の調べで分かった。健康保険で支払われた医療費総額は約207億 円、労災なら患者本人が支払う必要がないのに自己負担していた治療費(健保の2 割)は約40億円にのぼる。同庁からの指摘を受けた患者は自己負担分の返還を受 けることができるが、労災問題の専門家らは「実際の労災はもっと多い。労働者や事 業主に労災手続きの徹底を図るべきだ」と訴えている。膨大な“労災隠し”の疑いが、 数字で浮かび上がった。

 全国の社会保険事務所では、医療機関への支払い後に回ってくる年間約3億枚の 診療報酬明細書(レセプト)の中から、平日に初診を受けたり頚椎(けいつい)損傷な ど労災の疑いのあるものをチェック。患者本人に照会し、労災の事実が確認される と、医療機関から診療報酬を回収。医療機関が労働基準監督署に診療報酬を請求 し、患者の申請で労災認定されると、患者は、自己負担分の返還を労災保険から受 ける。

 こうした事例を社会保険庁が1990年度から昨年度まで調査したところ、毎年約6 万件あり、昨年度は過去10年で最高の約6万7000件にのぼった。  労働省はこれらの原因を調査していないが、労働者本人が労災保険制度について 知らないことのほか、▽仕事の受注資格に影響する無災害記録を無理に伸ばそうと する業者の存在▽元請けへの配慮▽資格外労働者の発覚を恐れる――などの理由 で、事業主が労基署に労災を届けない例が多いためとみられる。社会保険庁は「制 度が周知徹底されていれば、こうしたことが毎年6万件も起きないのではないか」と話 している。

 労災保険を使わなかった場合、労働者は、労災による休職期間プラス30日間は解雇されないという身分保障がない▽障害が残った場合は労災で補償される分を受け 取れない――などの不利益をこうむる。

 【大島秀利、清水勝】

労働省は行政指導を

 井上浩・全国労働安全衛生センター連絡会議議長の話

 労災事故を起こすと、元 請け会社の入札資格が一定期間はく奪されたり、労災保険料が高くなることなどが労 災隠しの背景にある。労働省は、実態をもっと調べて、さまざまな行政指導をするべ きだ。 労災保険  すべての事業主に加入が義務付けられている。業務上の理由や通勤中の負傷や 病気などの場合に、労災保険から症状の程度に応じたさまざまな給付金が支払われ る。事業主は賃金総額の一定割合の保険料を国に納める。事故に遭った労働者 は、事業主が証明した給付請求書を医療機関や労基署に提出。労災と認定されれ ば、療養給付や休業給付、障害給付などを受けることができる。

労働省は及び腰 関係機関連携を

 膨大な「隠れ労災」を生む第一の要因は、労働者に労災保険制度が十分伝わら ず、使い慣れた健康保険を使ってしまうことだ。第二に、事業主には「無事故記録」のノルマがあったり、労災事故で事業への入札 資格を失ってしまうため、労災を隠したいという傾向がある。そのために、健康保険 の自己負担分を肩代わりしたり、示談金を支払う場合もあるという。第三に、医療機関が患者である労働者に労災申請を勧めても、労災申請したため に患者が解雇されるといった例もある。このため、医師は患者の言うがままに健保扱 いにしてしまう。

 労働省の姿勢にも疑問はぬぐえない。社会保険庁の今回の「摘発」に対して、同省 は本格的な追跡調査は「やったことがない」という。下請けや孫請けといった弱い立 場であればあるほど、労災が隠されやすい。個人の努力や一部の労災申請支援組 織に任されるのではなく、関係機関が連携して真剣に対策を考えるべきだろう。

 【大 島 秀利】

 ぎっしり積まれた健康保険のレセプト(診療報酬明細書)に、大量の労災が隠れて いた。

レセプトの中から社会保険庁が「労災扱いすべきだ」としたのは、10年間で58万件。だが、労働現場や医師からは「自宅でけがしたことにしてくれ、と会社に言われ た」「労災を勧めると患者が姿を見せなくなった」など、労災隠しの横行を裏付ける証 言が出る。労働省は「実態は分からない」と話すが、制度を知らずに仕事で傷ついた 労働者は、泣き寝入りだ。  全国の社会保険事務所に来るレセプトは年間約3億枚。「人海戦術による紙との格 闘」(職員)で不審なものを見つけては本人に照会し、初めて労災と分かる。だが、 「本格調査する人手もないし、本人が会社との悪化を恐れてうそを言えばどうしようも ない」といい、実際の労災はもっと多いとみられる。

 大阪市内の建設会社に勤務する男性(37)。昨年夏、仕事で腰を痛め、健保で治 療を受けた。しかし、腰痛が悪化して休職、「椎間板(ついかんばん)ヘルニア」と診断された。会社に労災申請の相談に行くと、会社幹部は「元請けに迷惑がかかる。家で けがをしたことにしてくれ」と言い放った。 家族の勧めもあり、男性は会社を説得して労働基準監督署に労災申請し認定さ れ、健保扱いで支払った自己負担分数万円は療養給付として戻り、休業補償として 給料の8割(健保は6割)を手にした。男性は会社に職場復帰を申し出ているが、会 社は「別の仕事を探したらどうや」と解雇をちらつかせる。男性は「会社側は最初から 労災の手続きを取ろうとしなかった。泣かされている従業員は多いと思う」と話す。

 大阪府内の建設会社の元現場監督は「無事故記録を続けている時に、下請け労働 者が事故でけがをすると『やってくれたね』とか言うと、たいがい労災にはならない」と明かす。労災を隠すために「救急車を呼ぶな」という“鉄則”もあるという。  労災問題に詳しい大阪のの整形外科医は「患者に労災を勧めると、『くびにされた』 と言ってくることがある」と証言する。「健保扱いはおかしい」と指摘すると、姿を 現さな くなる患者も。「だから、次第に言いづらくなる。労基署への通報は皆無でしょう」  労働省は7年前に「いわゆる労災隠しの排除について」という通達を出したが、以 後、特別の対策はなく「今は通達を徹底させるとしか言いようがない」(労働基準局)。同省が「労災隠し」と公式に認めているのは、労災のときに死傷病報告をしなかった ために労働安全法違反で摘発したケースだけ。その数は年間約70件に過ぎない。 

【大島秀利、清水勝】