日本医師会(日医)年金2001/05/29

千田整形外科クリニック
千田 直


1)はじめに
これは日本医師会の会員向けの内容です。でも一般の方でも、年金について考える参考になるかもしれません。日医年金は最近新規加入者の減少や中途脱会者が増加し、加入者減、受給者増の傾向だそうです。日医年金を将来にわたって運営していくためには新しい会員の加入が不可欠とのことです。実は、僕も日医年金に入っていました。過去形です。数年前制度改定があり、年金額が切り下げられました。印象では当初予定されていた額の半分くらいになった感じでした。それで頭に来てやめてしまいました。その時は一時の勢いでやめたのですが、今思うと後悔して…・いません。よく考えればよく考えるほどやめて良かったと思っています。

2)国の年金制度
  簡単に年金制度を説明します。20歳以上の日本人は原則として国民年金に加入しなければなりません。世代間の相互扶助の考え方が基本にあるといわれています。つまり昔頑張って仕事をした世代の人達を、今現役で働いている人達が養う、といったイメージでしょうか。国民年金は基礎年金とも呼ばれ、最低限の額だけを保障するものです。勤めている人達はその上に、厚生年金(公務員なら共済年金)に加入して掛け金を払いますが、その分多く年金をもらえます。さらに企業によっては自前で厚生年金基金というのをつくっていて、そこの社員は老後より充実した年金をもらうことが出来ます。自営業の人達は厚生年金にあたるものはありません。国民年金だけでは心もとないので、国民年金基金というのが10数年前に出来ました。これには職能型と地域型があります。職能型は医師や歯科医師、弁護士など同じ専門職で自営の人達が集まってつくるタイプです。それに属さない人達が都道府県単位で集ってつくったのが地域型です。
いわゆる公的年金は国民年金と厚生、共済年金です。厚生年金基金は企業年金といわれますが、国民年金基金と同様税制上の優遇があるため、「公的な年金」という位置付けです。少し紛らわしいですが、ここは何度も出てきますので覚えていてください。
これらでもまだ不安である、という人はさらに私的(個人)年金に入ることになります。代表的なのが生命保険会社の個人年金です。これはいわば数10年単位の超長期の積立預金みたいなもので、税制などのメリットはもちろんありません。日医年金もこうした私的年金の一つで、我が国最大規模で、積立総額7000億くらいということです。

3)確定給付型と確定拠出型
さて、年金の給付には確定給付型と確定拠出型があるのをご存知でしょうか。前者は積み立てた金額によって給付額が決まっているタイプです。もらえる年金の額が決まっていないと老後の人生設計もままなりません。ですから公的年金は原則として確定給付型です。確定給付型はもらう方は人生設計しやすくていいのですが、払う方としては事情が異なります。預かっていたお金を高利で運用できれば支払う年金との間に剰余金が生じます。職員に高い給料も出せるし、病院を作ったり保養施設を作ったりも出来ます。
ところがバブル崩壊後、低金利が続きました。そのため約束した年金を支払うと逆に赤字になるところが出てきました。本来ならこういうときのために剰余金を取っておけば良かったのに、すでに使ってしまっていたのです。わずか10年の間に軒並み苦しくなってしまいました。
企業年金の不足分は企業が補填する決まりですので自腹を切ってしていました。黒字の時は恩恵を受けていたのだから当たり前ですが、近年企業の経営も苦しくなってきたため、それもままならなくなりました。中には年金を払えないまま解散する基金も出てきました。
そこで出てきたのが確定拠出型です。この確定拠出型というのは一言で言えば、自己完結型の年金です。積み立てた額は確定しますが、いくら年金がもらえるかはその運用次第です。何で運用するかによって極端に言えばゼロのこともあるし10倍や100倍だってありうるわけです。すべては本人の自己責任です。逆にいえば年金基金を預かる企業の方はメリットもデメリットもありません。最近企業年金などの公的な年金にこの確定拠出型を導入しようという動きがあります。日本版401kプランというやつですね。自分の老後は自分で何とかしろというわけです。

4)私的年金
さてそれならばと私的年金に目を向けましょう。生命保険の個人年金もかなり危ない状態です。生保は高金利時代に4〜6%以上の高利回りを約束した個人年金を販売しました。これも一種の確定給付型年金です。ところが現在は1.5〜1.7%程度でしか運用できていなくて、なんとか株式の含み益で穴埋めしているような状態です。新しく販売しているのは低利回りのものか、給付が変動する確定拠出型だからいいのですが、低金利時代が今後も続くと過去の契約による逆ザヤによって、生保自体の経営に支障が出てくる可能性があります。つまり高金利の契約者に解約してもらって新しい年金に入ってもらうか、あるいは政府の力を借りて特例として予定利率を引き下げるか、さもなくば破綻するしかない、という状況になっているのです。

5)日医年金
日医年金はどうでしょうか。日医年金も確定給付型です。僕が頭にくるほど下げられたといっても、予定利率3%となっています。
ここで話はちょっと飛びますが、数年前、野村證券の社長や役員が総会屋がらみで逮捕された事件を覚えているでしょうか。あれは、総会屋が数10億というお金を野村證券に持ちこみ「これで儲けさせてくれ」といったのが発端でした。野村では総会屋の口座を証券取引部門の最高責任者に任せました。その責任者は高卒ながら実力で役員にまでなったプロ中のプロです。ところが彼は運用に失敗し総会屋のお金を減らしてしまったのです。しかたなく野村は自分の会社で出した利益をさも総会屋の取引が儲かったように装って彼の口座に付け替えました。その挙句あえなく全員ご用となってしまったのです。
別に総会屋の話をしたいわけではありません。医師会では生保、信託銀行、投資顧問会社などに運用させているのですが、あの、日本の証券業界のガリバーといわれる野村證券の、そのまた第一人者ですらうまくいかないことがあるのです。よそがそれよりいいとは考えられません。仮にどこかに金儲けの天才がいたとして、僕がその人なら、他人のために働くよりは自分のために働きます。
では委託された会社はどうやって3%を維持しているのでしょうか。これはもう上から持ってくるか、横から持ってくるか、下から持ってくるかしかありません。上からというのは土地や株式の含み益をさしますが、ここ10年で含みも吐き出してしまってあんまり残っていないでしょう。横からというのは、別の契約者の利益をこっちに回すという方法です。そんなのありかと思われるかもしれませんが、少し前まで大口契約者に利益を保証しそれが達成できなかった何らかの方法で補填する、というのはこの業界では当たり前に行なわれていました。なにせ7000億のお客ですからね。多少の無理難題は聞いてくれるかもしれません。
ただ原則としては別勘定になっているはずですので、強引にやると何年か先に新聞などに大口補填先として名前が出るおそれもあります。すると残りは下から、つまり、現在あるいは将来の積立を受給者にまわすということになります。国民年金などと同じ、世代間の仕送りです。でも、今積み立てている人達が受給する時にもし次払う人がいなくなればどうなるんでしょう。国民年金は最終的には国が面倒見てくれると思いますが、日医年金はいったい誰が払ってくれるのでしょう。
もちろんあからさまにゼロにはならないと思います。でも、逆ザヤが膨大であったり、あるいは山一證券などのように損失を先送りするデリバティブを使った金融商品に手を出したりしていれば、ある日突然どこかの会社がばったり倒産、なんてことは十分考えられます。常識的には、将来金利が上昇した時にそれに見合うだけ給付額が増えないというのがもっとも考えられるところでしょうか。
僕が日医年金をやめたのは予定利率が下がったのが原因でした。でも今思うとそれでもまだ中途半端だったのではないでしょうか。一時的に批判は浴びるかもしれませんが、日本医師会はリスクを被る予定利率放棄して今からでも自己完結型の確定拠出型にすべきだと僕は思います。日医年金と最大規模を競っている保険医年金は確定拠出型ですし、歯科医師年金もすでに拠出型に移行しています。もちろん今後の経済状況でどうなるかわかりませんが、現在の低金利が続けば、後になって加入した人ほど割を食う可能性があります。