捻じ曲げられたNHKテレビ放送2001/10/09

高知県医療法人藤田整形外科;藤田泰宏


(1)はじめに

9月15日と22日の二日間にわたって、NHK−BS1で「医療・待ったなしの改革」と題したインタ−ネット・ディベ−ト番組が放映されました。内容については、平成13年10月8日現在もホ−ムペ−ジhttp://www.nhk.or.jp/debate/で閲覧可能ですが、番組の目的は「来年度の医療制度改革を目前に控えて、4名の出演者と視聴者がディベ−トし、望ましい医療制度改革を模索する」というものでした。しかし実際に放送された内容は、ディベ−トとはかけ離れておりました。

(2)番組制作上の問題点

問題点1:
中立であるべきNHKの姿勢が、番組開始前より政府寄りでした。上記ホ−ムペ−ジ中の「討論項目リスト」に、NHKの基本的姿勢を示す文章が以下のごとく掲載されています。
[厚生労働省案について]
「これは医療機関と患者の双方に負担を引き受けてもらって、パンク寸前の医療保険制度を維持してゆこうというものですが、みなさんはこの改革案についてどのようにお考えでしょうか。」
[医療に対するご意見]
「日本の医療保険制度の危機が語られる今、21世紀という新たな時代に則した医療制度を再構築することが求められています。皆さんはどのような治療のありかたを望んでいますか?そして今の医療制度にどのような不満をお持ちですか?日本の医療に対する具体的な考えをお聞かせ下さい。」
[医療費の抑制について]
「医療費が高くなっている原因の一つに、現在の医療に無駄が多いのではないかということが指摘されています。経済財政諮問会議の改革案はこの医療の無駄を省き、効率化を進める事で医療費を抑制しようとしています。皆さんは診療を受けるにあたって、無駄を感じたことがありますか?あるとすればどんな場合ですか?具体的に教えて下さい。」
[競争原理と情報開示について]
「経済財政諮問会議は、医療機関の情報を積極的に公開して、私たち患者がよりよい医療機関を選択できるようにすることで、医療機関同士の競争を促そうとしております。医療に競争原理を持ち込むことや、そのために情報を開示することについてどのようにお考えでしょうか。」
[高齢者医療費の負担について]
「医療費を押し上げている大きな要因が高齢者医療費です。その高齢者医療費の負担について、今後、高齢者自身にももっと負担してもらうべき、もっと税金を投入すべき、保険料を引き上げるべきといった意見があります。みなさんは、どうお考えですか?」
[医療費の負担と医療サ−ビスのバランスについて]
「私たちがより質の高い医療を受けようと思うと、ある程度の負担の増加はやむを得ません。これから私たちは医療の負担をどのように考えてゆくべきなのでしょうか。
・負担を増大させても質の高い医療サ−ビスを求めるのか。それとも
・負担を増大させないよう、受ける医療サ−ビスに制限を加えるのか。
みなさんのご意見をお聞かせ下さい。
(上記ホ−ムペ−ジより抜粋)

以上のように、NHKの姿勢は「より質の高い医療を受けるには、国民の負担増はやむを得ない。」というものです。この姿勢に対して、反論のメ−ルが多数投稿されました。例えば、「医療保険制度危機の責任は、政府にあります。」、「医療費は高くなっておりません!」、「今でも医療機関同士の競争は激烈です。」、「高齢者は、決して裕福ではありません!」、「負担を増大させずに、質の高い医療サ−ビスは可能です。」、「健康保険財政破綻危機の真実」、「これ以上の国民負担増は、国を滅ぼします。」、「医療費はだれがどう負担するのか?に、お答えします。」、「厚生労働省の改革案は、失政のツケまわしです。」などのメ−ルは、国民医療費国庫負担率を下げ続けてきた政府の失政を指摘したものですが、今回の放送ではことごとく無視されました。

問題点2:
4名の出演者の内、3名は国民医療費を削減する立場の人であり、高齢社会を迎え国民の健康を守るには相応の医療費は必要であるとする日本医師会の立場を代表する人は1名でした。3対1では、公平なディベ−トになりません。それどころか、中立の立場で出演するべきNHK職員3名全員が、「現在の日本の医療制度には無駄が多く、改善が必要である。」との立場をとり、6対1の不公平極まりない状況で番組が進行しました。

問題点3:
900通を超える視聴者からのメ−ルがあったものの、「医療費を削減するべき」との意見と「医療費を削減するのではなく、財政危機の最大の原因である公共工事とその受注機関となっている特殊法人を廃止するべき」とする意見のメ−ル数が公表されず、視聴者の意見の傾向が全く放送されませんでした。「増大する医療費をどう抑えるか・医療費は誰がどう負担するのか」という根拠なき思い込みで制作された番組のシナリオに沿ったメ−ルだけが主に紹介され、メ−ルの取扱いに明らかな偏向が見られました。

問題点4:
第1回放送の後、出演した医療費削減論者とNHK解説委員に対する「質問のメ−ル」がいくつか投稿されましたが、第2回放送では全く回答の場面がありませんでした。番組出演者と視聴者間のディベ−トがなされない番組に、インタ−ネット・ディベ−トと名付けるNHKの番組制作姿勢には疑問が残りました。

(3)そもそもNHKは、公共放送なのか?

今回の放送を振り返ってみますと、公共放送とはとても言えないNHKの体質が露呈しました。公共事業偏重の国家予算配分を見直すべきとか、憲法25条を遵守した社会保障制度の改善といった今回のテ−マの根幹に関わるメ−ルをことごとく無視し、NHKの台本に沿ったメ−ルだけを拾い読みするNHKの姿勢に驚きました。NHKにとって都合の悪いことは伏せておき、都合のいいことだけを恣意的に取り上げて世論を誘導する姿勢は、国や都道府県、市町村とまったく同じです。その結果、この国はどうなりましたか?
国家権力を構成する要素は、「政・官・財・マスコミ」と分析されますが、官とマスコミが一体となった特殊法人NHKの存在は、国民を幸せにするものではないことが、今回の放送でも明らかになりました。NHK受信料支払いの功罪を、もう一度じっくりと考えてみる必要があると思います。