正義の味方朝日新聞! 2001年1月11日

新潟県 荻荘則幸


 JCOAのメーリングリストで多数の先生が意見を述べられている、話題の発端となった朝日新聞の記事“交通事故のけが健保使えます” (平成12年8月17日付)の新潟の開業医です。

 今回のメーリングリストで問題となっている 交通事故での自賠責と健保の関係、患者さん・ 保険会社への対応などの本質的な問題はそちらに譲るとして、少々天下の朝口新聞社様に吹けば飛ぶような開業医の戯言を聞いてもらいたく ペンをとりました。

 平成12年8月5日の診療中に朝日新聞社“佐藤 純” なる記者が名刺を受付に置いていきました。その発端は当院にかかっていた交通事故で受傷 (いまだに被害者なのか加害者なのか本人の弁ではっきりしない)した患者さんから朝日新聞の平成12年5月「聞きたい」欄を読み、Eメールで当院の苦情が届き、その件で取材をしたい旨の申し 入れでした。その2日後の8月7日に電話で取材を受けました(この10日後には、早くも記事 として全国に流れていました)。まずこの点で 新聞の記事を読むとあたかも実際に会って取材 したような雰囲気で書いてありますが、お会いしていません。


 まず佐藤氏は“交通事故の患者さんでは全身のレントゲンを撮影しないと診察しないのか” と聞いてきました。当然そんなばかな事はありえないですと伝えても納得してくれませんでした。Eメールを送った患者さん(氏名は教えて もらえませんでしたが当院で調べた結果、当院でもその行動が有名になっていたある患者さんではないかと推測しています)は善い人で、医者は悪い人という立場で、記者は裁判官とでも言いたげな雰囲気でした。

 次に出た質問がメーリングリストで問題とな っている“交通事故での健保が使えます”云々の事でした。当院では毎月40人前後の交通事故の患者さんの治療にあたっています。また当院 のレセプト関係の事務長は大病院で20年間経験を積んでおり、開業当初より当然、交通事故で も健保が使えることはほかの職員にも周知徹底 してありました。実際に健保を使っている方も いらっしゃいます。記事の中での「新潟では交 通事故で健保は使えない」などと言えるはずがありません。現にこの方の場合、国保併用で治 療を行っていました。その後もいろいろ後日談 があった方ですが、初診後約3カ月で治療を終えています。


 今回の記事に関して不満なことは、直接面会して取材していただきたかった。できれば我々医師にも守秘義務があるので実際の患者さんの氏名を教えていただき、カルテを参照しながら 患者さんの言う事実があったかどうか確実に検証させていただければ、もっと正確な受け答え ができたと思われます。取材の時点では既に患 者さんは治療を終えていた(と思われます)の で患者さんは何ら不利益を被らないはずです。

 とにかく今回の取材に関しては私には患者さんが誰なのか教えてもらえず、適切・正確な受 け答えができなかった。また取材から10日後に 特集の記事として載せるなら、私と面会している余裕もなく、電話(約10分)取材のみで正確 な記事といえるのか疑問が残ります。この全国版の記事で新潟の医師は国保併用で交通事故の 患者さんを治療していたにもかかわらず、あたかも自由診療で儲けている悪徳医師にされ、さぞかし正義の味方、佐藤氏は溜飲を下げたことでしょう。

最後に、それでもまだ20年間慣れ親しんだ朝日新聞を購読している自分が情けない!


追加反論

1)交通事故と健康保険(整形外科医の視点)

2)日本臨床整形外科医会の交通事故における健保使用;朝日新聞への正式抗議文

3)日医の反論

視点 交通事故のけがは自賠責で

 八月十七日付朝日新聞に「交通事故のけが 健保が使えます」という見出しで自賠責保険についての記事が掲載された.その内容をお読みになった方はさぞ驚かれたろうと思う.実際に取材を受けて,日医の見解を話をした者にとってはびっくり仰天である.

 この件について,記者が日医に来館して,自賠責についていろいろな質問を行い,それに対して懇切に説明をしたが,その結果があの記事となって報道された.もちろん,医師会以外の団体,識者にも取材したとのことであるが,医師会の考え方をまったく理解せず,どうも何かを意図的に作文したとしか考えられない内容である.

 日医は,従来より,次の二点の考え方を明らかにしている.

一,交通災害に対する診療は,災害医療の範疇に属するものであり,一般傷害に対する健康保険診療と異質のものである.

二,ひき逃げ,または無保険者による場合を除き,自賠法優先を認めるべきであり,行政上の取り扱いも,できるだけ自賠法の優先適用という方向をとらなければならない.

 これらは,昭和四十四年十月に公表したもので,現在も,この考え方になんら変わりがない.

 健康保険は相互扶助保険であり,自賠責保険はユーザーに義務的に課している被害者救済を目的とした補償保険である.そして,自賠責基準案は国会の要請により,自賠責審議会を経て,日医,損保協会,自算会の三者により作成されたもので,審議会に答申して,現在三十八都道府県で実施されている.その基本は被害者救済であり,特別の事由がない限り基準案優先である.

 また,交通災害の救急医療の八〇%を民間医療機関が行っているが,救急医療は不採算医療ともいわれ,空床の確保,救急時の人員の確保と待機,医療機器の高額化など,その運営にはたいへんな努力をしている.  マスコミは,このようなことを正しく理解して,一般国民の啓発をすることが重大な責務ではないだろうか.

以上は日医ニュースより引用


以上は以下の2つの朝日新聞記事に対する反論です

朝日新聞記事全文

【平成12年9月7朝日新聞くらし記事全文】

○交通事故の保険適用

○健保に届け出必要

○交通事故に遭ってけがをした場合でも、普通のけがや病気と同じように健康保険が使えることを紹介した八月十七日付の「くらし」記事に、さまざまな意見をいただいた。その主な内容は、「交通事故で健康保険が使えるのは、健保組合など保険者が事前に承諾した場合だけだ」という医療関係者からの指摘だった。健保組合には、承諾する権限はないが、確かに「届け出」は必要だ。この届け出について調べていくと、現場の取り扱いが混乱しているのがよくわかる。健保を使った方が被害者にとって有利な場合があるから、切実な問題だ。(佐藤純)

○診療後の提出でも可能

○八月の記事では、交通事故でけがをした元会社員が、健保を使って診療を受けようとしたところ、医師に断られた体験談や、「交通事故によるけがも保険給付の対象となる」という厚生省の通知を紹介した。

○健保を使う保険診療の場合、治療費には診療報酬という公定価格が適用される。つまり、医療費の値段が決まっているので、健保を使わない自由診療に比べて医療費を抑えられる。得に、被害者の過失割合が高く、治療費も高くなる場合は、被害者もかなりの負担を強いられるので、健保を使えば被害者の負担軽減にもつながる。記事の中でこんなことを説明した。

○「重要な一点が欠けています。それは健保適用の前提には、(保険者への)届け出があることです」 ○「被保険者は保険者に届け出をし、承認を受けなければなりません」

○読者からの指摘が相次いだ。

○八月の記事では触れなかったが、「届け出」の手続きは必要だ。他人の車にはねられるなどしてけがをし、健保を使って診療を受ける場合、「第三者行為による傷病届」といった書類を健保組合や社会保険事務所、国民健康保険を運営する市町村、共済組合など、それぞれが加入している保険者にださなければいけない。事故の報告書や診断書も一緒に提出する。

○加害者に治療費の支払を求める権利を、被害者に代わって保険者が得るための手続きだ。ただし、健康保険法施行規則などによると、必ずしも診療の前に届け出なくてもよく、診療を受けてからできるだけ早く提出すればいい。

○電子メールをくれたある整形外科の開業医は、届け出が確認できるまで、患者への医療費請求を見合わせている。保険診療か自由診療か決まらないので、医療費の計算ができないからだ。本来その日に入るはずのお金がはいらないのは医療機関にとって不都合だが、不慮の事故にあった被害者の立場に配慮しているという。 ○厚生省「保険者は拒めず」

○開業医「認めない組合も」

○厚生省などに確かめると、保険者は交通事故に遭った加入者が「第三者行為」によるけがなどの届け出書類を提出しようとした場合、特に不備がなければ、原則として受理することを拒めない。つまり、保険診療を受けるかどうかは、あくまで加入者が決めることだ。

○しかし、読者からの投稿を読むと、現実はやや異なるようだ。

○岡山県の整形外科診療所に勤める事務員は、被害者本人の負担が大きくなりそうな時には、「健保が使えますよ」とアドバイスしている。

○最近、交通事故に遭った電機メーカーの社員に助言した。しかし、この社員が会社の健保組合に相談した結果、「やはり、健保は使いません」と伝えてきた。以前もこのメーカーの社員から、「うちの健保組合は交通事故の場合は使えない」と言われたという。

○「健保組合が、交通事故の場合は健保が使えないと誤解しているんでしょうか」と診療所の事務員はいう。 ○大阪府にあるこの健保組合に電話で取材してみた。 ○「事故の場合健保は使えないと言われた社員がいるそうなんですが」

○しかし、「うちは届け出があったら断りません」という。ただ、届け出には診断書や事故報告書などが必要だと伝えると面倒臭がって健保を使わない人もいるという。

○健保を使うことを、保険者に拒否されてスムースにいかないという訴えも届いた。

○新潟県の整形外科の開業医から、「健保を使うことを健保組合が了承しない場合がある」という電子メールだ。 ○話しを聞くと、交通事故の被害者を健保扱いで診療したところ、健保組合から「認められない」と電話がかかってきたことが何度かあったという。

○自動車保険料率算定会によると、毎年、交通事故でけがをした人の多くは自分の健保を使わずに、自由診療で治療を受け、加害者の自動車損害賠償責任(自賠責)保険から支払われる保険金で、治療費をまかなっている。 ○自由診療の場合でも、医療費が高くならないように設定した基準を採り入れる地域が広がっており、将来は交通事故診療の算定基準として制度化することも検討されている。

○しかし、健保を使うか使わないかで被害者が戸惑いかねない状態が、当分は続く見込みだ。医療費の負担が問題になりそうな時には、地方自治体の交通事故相談所などに早めに問い合わせた方がよさそうだ。


【平成12年8月17日朝日記事】 交通事故のけが、健保が使えます 自由診療だと割高

 「交通事故で負ったけがの治療に、健康保険は使えない」と、誤解している人が意外に多い。実は、堂々と使えるのだが、病院で断られることもある。5月に「聞きたい」の欄でこのことを取り上げたところ、体験談や感想が相次いで寄せられた。健保を使わない自由診療は、結果的に割高になる。その分、医療機関にとっては割のいい仕事になるが、けがを負った患者にとっては多額の出費につながりかねない。様々な利害がからみ合う交通事故診療の裏側を調べてみた。 (佐 藤純) 

新潟の元会社員の例  医師に断られて自賠責で支払い

 電子メールを送ってくれた新潟県の元会社員を訪ねた。今春、自転車で車に接触して引きずられ、足をけがした。救急車で病院に運ばれ手当てしてもらった。腰の痛みがひかず、約1カ月後に整形外科の開業医に治療してもらった。「健康保険を使わせてください」と申し出たが、医師は、「新潟では交通事故では健保は使えない。自賠責があるでしょ」という。 自動車損害賠償責任(自賠責)保険の加入は、すべての自動車に義務付けられている。けがの場合は120万円まで支払われる。「最初の病院では使えたのに……」と割り切れない気持ちのまま帰宅した。

 加害者側との示談交渉では、事故の経緯からいって、自分にも責任があると認めざるを得なかった。けがの治療費や休業補償などの損害額が、加害者側の自賠責の限度額である120万円を超えると、過失の割合に応じて自分の方にも負担が生じる。

 日本損害保険協会医療調査グループの青江健策さんに、実情を尋ねた。青江さんは「被害者の治療費が高額で、過失割合も高い場合に、問題は大きくなる。治療費が膨らむために慰謝料や休業補償の額が抑えられるなど、不利益を被ることもある」という。 たとえば、治療に150万円かかったとする。自賠責の限度額を30万円超えてしまう。自分にも2割の過失割合がある場合、150万円の2割、つまり30万円を自己負担することになる。健保を使えば、そのうちの2割(6万円)を払うだけで済む。

 厚生省が全国の都道府県に出した通知がある。「いうまでもなく、自動車による保険事故も一般の保険事故と何ら変わりがなく、保険給付の対象となる」と明記されている。 通知が出されたのは交通事故が急増していた1968年。交通事故で「自由診療」が広く行われていた時代だ。自由診療とは、厚生省が決めた価格(診療報酬)に関係なく、医療機関が独自に価格を設定できる方法のことだ。当時は、健保を使った診療に比べて医療費が高額になり、問題になっていた。

○医師会の言い分は  健保使う事情を患者は説明して

 診療する側はどんな意見だろう。日本医師会に高瀬佳久常任理事を訪ねた。健保の適用を医療機関から拒まれる場合があることについて、高瀬さんは「事情があって健保を使いたいなら、患者が医療機関に説明してくれないと。診療を受ける側の責任ですよ。私たちが責めを負う話ではありません」と話した。もともと日本医師会は、交通事故で健保を使うことに否定的だ。「加害者の行為によるけがなのに、国民の相互扶助の社会保険である健保が負担するのは、おかしいのではないか」と言う。

 交通事故をめぐるトラブルに詳しい弁護士の高野真人さんに意見を求めると、「被害者が不利益を被る可能性がある場合でも自由診療を押し付けるのは、医療機関の無理解か、使えると知っていて使わせないなら『悪徳商法』だ」と指摘する。

 では、なぜ医師は自由診療をしたがる傾向にあるのか。ある弁護士は、「車を運転する人は自賠責に加えて任意保険にも加入していることが多い。自由診療で高い医療費を請求しても、加害者に損保会社がついているから、もらいそびれることはない。医療機関側にそんな意識がないとは言えない」と指摘する。厚生省が決める診療報酬が、医師側にとって満足できる水準でなかったことも背景にあるようだ。自動車保険料率算定会(自算会)が86年に実施した調査では、自由診療の平均単価は、健保を使った場合の約2倍だった。

◇自由診療の基準あるが… 対象限られ強制力なし

 自由診療で治療費が高くなれば自賠責の財務を悪化させる。結果的に、保険料が上げられるなど、国民の負担が重くなる可能性がある。そこで、日本医師会と損保協会、自算会は89年、自賠責保険を使って自由診療をする場合の基準案をまとめた。

 労災保険の基準に沿って、包帯や湿布などのモノの価格は健保を使う場合の1.2倍、技術料は1.44倍までという内容。都道府県ごとに医師会と損保協会、自算会が話し合って実施することになった。ただ、対象は民間医療機関に限られ、強制力はない。

 自由診療で健保の2倍以上の治療費を取ることが少なくなかったころに比べれば、一定の歯止めにはなる。でも、同じ治療を受けるのに、健保を使うか使わないかで治療費が違う不思議さは残っている。新潟の元会社員に「保険は使えない」と言った開業医を、訪ねてみた。

 患者には「新基準」で請求しているという。しかし「健保は使えない」という説明は、健康保険法や厚生省の通知に反していることを告げると、医師は言った。「交通事故はすべて(自由診療として)自賠責でやるものだと錯覚していた」