整形外科医の視点
診療報酬    「過剰請求」ではなく、「過少支払い」です!

医療法人・藤田整形外科 藤田泰宏

 先日の新聞(平成14年8月27日)に、「診療報酬1,000億円過剰請求」との見出しで、次のような記事が大きく載っておりました。

 「政府は27日の閣議で決めた答弁書で、2001年度に全国の病院や診療所が審査支払機関に請求した診療報酬明細書(レセプト)のうち、過剰請求と判断して減額した総額が約1,000億円に上ったことを明らかにした。」(高知新聞一部抜粋)

 患者さんが健康保険を使って治療を受けた場合、患者さんは、治療費総額に窓口負担率(2割とか3割とか)を掛けた金額を医療機関に支払います。残金分については、保険から医療機関に支払われます。ところが、保険者である政府および健康保険組合や市町村及び組合は、診療報酬明細書に基づき治療費を医療機関に支払う際、適正な保険医療が行なわれたかどうか査定します。そして、査定減額した分を「過剰請求」と決めつけ、上記のように「医療機関を悪者扱いする」新聞記事になるような情報をマスコミに流します。

 わが国の医療機関は、本当に悪者なのか?

 以上の疑問に答えるには、減額査定された医療行為を検証する必要があります。最も多い減額査定理由の一つに、診療報酬明細書の「病名もれ」があります。例えば、「膝が痛い」と訴える患者さんの膝をレントゲン撮影し注射をしたのに、医療機関がうっかりして膝に関する病名を書き忘れてしまった場合、レントゲン費用と注射代が減額査定されます。例え患者さんの膝痛が完治しても、医療機関は診断・治療に要した費用を保険から支払ってもらえません。勿論、医療機関は「膝の病名」を追加記入した上で、「再審査」を請求します。しかし、多くの場合「棄却」されます。送られてきた再審査結果通知書には、「病名追加は認められないことになっております。」と書かれており、多くの医療機関が泣き寝入りを強いられる「しくみ」になっているのです。ちょうど一年前、私は医師会を通じ、「病名追加が認められない」とする法的根拠を支払い機関に問いました。ところが「法的根拠はない。審査委員会の合議による判断である。」という驚くべき回答が返ってきました。保険者つまり行政は、「法的根拠もなく」勝手にルールを作り運用しているのです。
 保険者つまり行政は、建前上、根拠に基づいた医療(EBM)を医療機関に求めます。医療機関が「根拠に基づいた医療」を心掛けるのは、国民の健康を守る医療担当者として当然の姿勢です。ところが、医療機関が最良・最新の医療を患者に施すと、保険者つまり行政から「待った」が掛かる事がしばしばあります。患者にとっていくら有効な治療であっても、「保険財政を圧迫する」との理由で減額査定されるのです。「根拠に基づいた医療」をいくら行なおうとしても「高額」を理由に減額査定され、挙げ句の果てに「過剰請求」とのレッテルが貼られるという「医療機関の無念」、国民の皆様に是非理解して頂きたいと思います。
 厚生労働省は先日(平成14年7月31日)、日本人の平均寿命が過去最高を更新したことを発表しました。「男78.07歳、女84.93歳」は「世界一」です。
 一方、我が国の国民医療費支出は世界で何番目でしょうか?
 OECD「Health Data 2000」による医療費/国内総生産(GDP)の国際比較では、7.5%の日本はイタリア・ポルトガルに次いで世界第18番目に位置しております。つまり、日本は極めて低額の医療費で最高の結果を得ている国なのです。

 なぜ、国は医療費を一層削減しようとするのか?

 答えは簡単です。国は無駄な公共工事をやり過ぎて、借金で首が回らなくなったからです。1995年度のOECD資料からサミット7カ国の公共事業費を比較すると、日本が3,279億ドルで、カナダ・アメリカ・フランス・西ドイツ・イタリア・イギリスの6カ国合計2,682億円よりもさらに多いのです。異常としか言いようがありません。政府が公式に認めている長期債務残高は2002年末で690兆円です。それ以外の隠れ借金を足すと1,000兆円を超えるとも言われております。GDPの2倍を超える現在の債務は、ちょうど昭和20年の敗戦直後と同じであるとの指摘もあります。とにかく、すさまじい借金です。国はなぜ、このような無茶苦茶な借金をしたのでしょうか?それは、日本の権力構造をなす「政・官・財」が利益誘導を行なった結果なのです。大型公共工事を任される特殊法人や受注大手建設会社に天下る官僚はほうぼうを渡り歩き、数千万円から億の単位の退職金を複数回受け取ります。談合で高額の受注を手にした大手建設会社は、マージンを差し引いた金額で下請け会社に丸投げし、そのマージンから有力政党に莫大な政治献金をします。「政・官・財」が共に潤うしくみが、「公共工事」なのです。その一方で割りを食うのは国民です。国は公共事業費にお金を使い過ぎたために、医療・福祉・年金などの社会保障費を削減せざるを得なくなったのです。国民こそ哀れです。
 「医療機関の過剰請求」報道は誤りです。国は公共事業に「過剰支払い」したために、社会保障費である医療費を「過少支払い」しているというのが実態です。