整形外科医の視点
介護市場と市場原理主義
社団医療法人 鶯宿温泉病院 久保谷康夫

介護統計より

 平成13年度の介護保険関連の支給総額は3兆2,291億円で、支出内訳は在宅関係が33.9%、施設関係が66.1%だった。利用者の延べ数は、在宅関係が1,360万人、施設関係が664万人。
 予想以上に施設関係の支出が多く、来年度は介護保険料を11%値上する予定。施設関連の支出が問題なのか?
 すると、介護系施設の現状を知る必要がある。

介護の現場

 介護療養型医療施設すなわち療養病床群(14年4月現在)は、病院で105,902床、診療所で8,854床である。介護老人福祉施設すなわち特別養護老人ホーム(11年10月)は、4,214施設、283,822人分である。また介護老人保健施設(12年3月)は、2,554施設、223,498人分である。その他、軽費老人ホーム(10年10月)は1,820施設、有料老人ホーム(10年10月)は287施設、さらには、痴呆対応型共同生活介護は9,173人分になっている。
 ちなみに、在宅系の訪問看護ステーション(12年3月)は4,354カ所で運用されている。

介護関連の負担金

 また施設なり在宅なりの利用者は、介護度に応じて一部負担金を支払って利用する。その一部負担金は、在宅関係では6,500円から36、580円であり、施設関係では16,580円から36,580円である。
 一方保険料は、居住する市町村(保険者は市町村)によって、あるいは非保険者の年齢・所得により異なるが、約1,500円から3,000円である。

政府の考え方

 さて、日本の産業界・経済関係者は、何かにつけて10年前の米国の種々の制度を持ち込もうとする。
 また現政権の主眼は、市場経済主義を御旗に規制緩和と競争原理を促し、自助と自立(律)のスクラップ アンド ビルドを考えているようだ。
 医療制度改革にしても、実のところは、「100兆円規模の医療マーケットが眠っていることが明らかになった」として、新成長産業として医療ヘの期待が高まったところが出発点だった。
 市場拡大のためのシナリオは、「医療サービス効率化プログラム」の策定から5項目の具体的施策ヘと進んでいる。しかし、最後まで生き残るのは医療の市場化だけで、その他の部分はどこかに消えてしまうかも知れない。

アメリカの現状は

 では、市場原理の総本山であるアメリカの医療・介護現場はどうなっているだろうか。覗いてみよう。
 李 啓充氏の著書(市場原理に揺れるアメリカの医療)によれば、本邦の介護保険や老人医療とほぼシステムを同じくするメディケアの制度は以下の如くである。
 すなわち、1995年の統計によれば、メディケア加入者は老人3、300万人、身障者400万人である。
保険料は一人当たり月46ドル(1995年度)であり、加入資格をもつ老人の98%、身障者の88%が加入している。
 また60日までの入院医療費(1回の入院につき自己負担は716ドル)も、支払い保険料も大雑把には本邦と遜色ない。
 しかし、ここからが「桁違い」なのだ。入院61日以降は自己負担が、1日当り179ドルになるのである。「1日当り」なのである。
 また、リハビリ入院費も初めの20日は自己負担が無いが、21日目からは90ドルの自己負担である。
 本邦の低所得者保険と同様な、メディケイドと呼ばれるシステムもある。メディケイドは、脳血管障害などの急性期ケアやリハビリなどの長期ケアもカバーする。しかし、介護保険施設のようなナーシング・ホームでの長期介護はカバーしない。脳血管障害で長期介護が必要になったときは、患者は年間、3万5千ドルの費用を「自弁」することになる。

日本の将来は?

 アメリカの低所得者は「お金持ちなのだなー」と思ったのが、著書を読んだときの感想だった。しかしこの読後感想の間違いにすぐ気づく。
 脳血管障害や脊髄損傷などの高度の介護を要する状態で、「1日2万円以上の自己負担」および「年間400万円の自己負担」は不可能であると。富める者たちだけの介護だろうか?
 真似事が好きな本邦の医療・介護システムが、アメリカの同じ轍を踏まないようにしたい・して欲しいものである。

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