21世紀を迎えて (2001/1/7) 

千田整形外科クリニック  千田 直


1)はじめに

本来ならおめでたい新世紀なのですが、どうも心が晴れません。 2001年1月から70歳以上の方の医療費の自己負担が増えました。別に医療機関の収入が増えるわけではありません。患者さんからいただく金額が増えた分、健康保険の方 からの支払いが少なくなるだけです。 思い起こすと平成9年9月、社会保険本人の自己負担が1割から2割に引き上げられまし た。1割から2割というと、実際に払う金額は倍になるということです。同時にお年寄の負担も約2倍に引き上げられました。

この年は消費税率が5%に引き上げられ、それまで続いていた所得税の特別減税が廃止された年です。加えてこの医療費の負担増でした。その後日本は一気に大不況に陥ったのでした。僕は経済の専門家ではありませんが今日の経済状況について、自分なりの考えを述べてみたいと思います。


2)不景気の原因

今、国民は将来に大いなる不安を感じています。 相次ぐ医療費や介護保険料などの負担増、消費税率の引き上げ、逆に切り下げられそ うな将来の年金など、どれをとっても国民に負担を強いるものばかりです。一方景気 は良くならない、職も失いそうな状況。これで不安を感じるなという方が無理という ものです。そのため、欲しい物も我慢して必死で生活を防衛しているのです。

個人消費はGDP(国内総生産)の約60%を占めると言われています。この個人消費の 落ち込みこそが不景気の最大の原因です。 日本の政府は多額の借金を背負っています。財政再建が必要なのはわかります。しか し国民の負担を増やして財政再建をしようとすれば、国民は消費を抑制します。その 結果、景気が悪くなるのは誰も考えても明らかでしょう。


3)国の景気対策

さて、国の景気対策はどうなっているでしょうか。 基本的には公共事業と低金利政策の二本建てです。 公共事業は、働いて給料を貰う人がいるのでその分が一部消費に回りますが、多くは 鉄やコンクリートの塊と膨大な産業廃棄物の山になってしまいます。建設会社では昔 に比べ人手が要らなくなってきているので、公共事業はあまり消費を喚起しなくなり ました。そうなると、景気への影響としては、その事業が行われている期間、一部の 業種のみに限局され、全般的には効果がないことになります。

日本の公共事業費は年間50兆円くらい。これはアメリカ、フランス、ドイツ、イギリ ス、イタリア、カナダの6カ国の合計より多い数字です。まったく気が遠くなりま す。それをここ10年くらい毎年やっていますが、景気は回復しないどころか国の借金 を増やすばかりで、かえって国民の将来に対する心配の種をふくらます結果となりま した。


4)低金利政策について

もう一つの低金利政策はどうでしょうか。低金利政策の所以は、低金利だと借金しやすくなり事業を起こす意欲がわく。また貯蓄に回しても利息がつかないので使ってしまおうという気にもなる。あるいは欲しいものがあれば利息が安いので借金しても買う。こうして消費が増えて設備投資もするようになり景気が良くなる、という理屈で す。 これも少し検証してみましょう。

まず低金利と事業との関係です。事業をするということは借金の元金と利息を返して、材料を仕入れて売って、人件費 など諸々の経費を払って、なおかつ自分のためにいくばくかのお金を残す、というこ とです。普通の先進国であれば、概ね適正な経費というのがあります。例えば極端に安い人件費で人を働かせてはいけません。利息だってその一つです。適正な経費を払 って事業が成り立たないのなら、そもそもその事業の中身が間違っていたのです。 言換えるなら、低金利でなければ出来ない事業はやるべきではなく、銀行もお金は貸 してはならないということです。 つまり低金利と新たな事業とはあまり関係ないと言えるでしょう。

次いで金利と消費の関係です。 仮に1000万円の預金があって、これに年5%の利息がつくとします。すると1年後には 40万(税金で20%ひかれる)増える事になります。仮に40万使っても、また1年す れば40万つきます。仮に80万つかったとしても、あと1年我慢すればほぼ元に戻りま す。元金さえ大きく減らさなければ、毎年40万消費可能です。 ところが利息が0%だとすると、消費すればその分は着実に目減りします。決して元 に戻る事はないのです。これでは恐くて消費できません。

借金して消費するのはどうでしょうか。これの代表が住宅ローンです。 バブル崩壊後、金利低下と国の住宅政策にのせられて、多くの人が住宅ローンで家を立てました。その人達が今どうなっているか。 金利が低いのは確かですが、給料が思ったように増えず、いつまでたっても返済が楽 になりません。それどころか、リストラで収入自体がなくなる人も出てきました。な んとか生活を切り詰めて、ローンだけ返しているのはまだいいほう。下手をすれば自 己破産です。 今、家計でローン返済が占める割合が10年前よりかなり上がっているそうです。その分だけ消費が抑制されているのです。低金利だからといって借金して消費すれば、後になって利息もついて家計を圧迫する。当たり前の事です。

つまり金利が下がれば新たな事業が起き、消費が増えるというのは、少なくとも今の 日本の場合はまったく当てはまりません。むしろ逆です。 このように、今政府がやっている政策は間違っているとしか言いようがありません。


5)どうすれば景気が良くなるのか

最初にも述べましたが、専門家でもない僕が有効な処方箋を書けるかどうかわかりませんが、ここ10年にわたる国の失敗を見ていれば、その反対をやればいいのだけは確かです。 具体的に言えば、医療費の自己負担や消費税を下げる。さらに言えば、年金や介護保 険なども国庫負担を増やします。公定歩合も先進国並に徐々に引き上げて利子生活者でも老後を安心して送れるようにします。こうすれば個人消費も増え、景気も上向くでしょう。

財源をどうするかですが、これも簡単です。公共事業をやめればいいだけです。すべてとは言いませんが、他の先進国並でいいと思います。 だいたいGDPの規模が二倍のアメリカの半分として、今の5分の1から6分の1程度が妥 当ではないかと思います。国と地方を合わせて5兆から10兆円の間くらいでしょう か。本当は今まで多かった分だけもっと少なくしたいところですが。 そうすればあっという間に40兆円くらいが浮く計算になります。国の借金を返しなが ら、国民の負担も軽くできます。

もちろん問題がないわけではありません。 直接的には建設会社の仕事がなくなり倒産してしまうことです。金利の上昇も建設会 社のみならず、一般の企業や銀行にとっては負担です。やはり倒産するところも出る かもしれません。 しかし資本主義社会では時代に合わなくなったり、経営に失敗した企業が倒産するの は当たり前です。不況や倒産こそが資本主義の最大の強みだ、と言いきる人もいるほ どです。

後は倒産によって生じる失業対策を十分にやればいいのです。失業者には一定期間の 失業手当で生活の保証をしながら、再教育を行ない新しい技術を身につけさせる。 こういった個人に対するセーフティーネットを整備する一方、規制を緩和して新しい事業を起こしやすくする。そしてそこで新たな雇用を生み出させる。こういったこと を地道にやっていくしかないと思います。

敢えて我田引水をさせてもらえれば、あまり負担を気にせずに医療機関にかかれるというのはセーフティーネットの最たるもので、立派な景気対策だと思います。その意味では1月からの負担増は、景気に対して大きなマイナスに働くのではないかと危惧 します。