◆ペインクリニックのお話

●ペインクリニックってなんだろ?
 「ペインクリニック」、ちょっと耳慣れないこの言葉は直訳するなら“痛み(ペイン)の診療所(クリニック)”という意味になりましょうか。つまり病気にともなう「痛み」の治療を専門的に扱うのがペインクリニックの特徴で、神経ブロックという方法によって、痛みの診断と治療を行っています。一般に薬物・理学・ハリなど、それのみによる痛みの治療はペインクリニックとは呼ばれていません。
 歴史をさかのぼれば、過去の医療従事者の中には、病気によって引き起こされる「痛み」や慢性の「痛み」を軽視する傾向があったことは否定できません。「鎮痛剤は害になる。痛みはなるべく止めない方が、生体の快復は早くなる」といった間違った俗説すら信じていた医師もいるくらいです。しかし患者にしてみれば、病気の治療もさることながら、さまざまな痛みからの解放をこそ、強く望んでいる場合が少なくありません。こうした傾向が次第に強まり、日本では昭和37年に東大麻酔科にはじめてペインクリニックを設立。以後、国内各地に、ペインクリニックを受けられる医療施設が増えていき、仙台においては我が佐々木整形外科麻酔科クリニックが、そのうちのひとつに数えられているわけです。


●神経ブロックってなんだろ?
 ではペインクリニックにて行われる、神経ブロックとはなにかというと、ブロック針という細い針を神経に直接、あるいはその近くに刺し、薬液を注入して神経の興奮伝導を遮断(ブロック)することをいいます。
 神経ブロック法は、現在50種類ほどありますが、このうち実際に行われているのは約20種の治療法で、大別すると体性末梢神経(知覚・運動)ブロック交感神経ブロック、およびそれらを混合したブロックというようになります。特に注目されているのが交感神経ブロック。これを行うと知覚や運動神経に影響を与えずに、それぞれの支配領域の血行をよくし、痛みを遮断、自然治癒力も発揮されるようになるのです。花粉症自律神経失調症、メニエール病、アトピーなど幅広い病気に対し有効とされる星状神経節ブロック療法も、交感神経ブロックのひとつです。
 交感神経ブロックの次に多く使われる療法に硬膜外ブロックというものがあります。入院治療の多くはこの方法がとられています。


●どんな疾患に有効なのか?
(1)三叉神経痛
 強烈な痛みが発作的におこり、痛みの王者とも形容される辛い病気です。三叉神経は3つに分かれ顔面の大部分を支配する神経。発病は50歳代がいちばん多く、次いで60歳代。女性が男性の倍近く発症している、というのもこの病気の特徴です。従来は薬物療法が主でしたが副作用等で悩む人も多く、また手術で一時的に痛みが治まっても再発する例が頻発。現在では神経ブロック療法がいちばん効果的とされています。三叉神経痛という診断が正しく、ブロックの技術が確実であれば劇的に痛みは止まります。
(2)帯状疱疹(ヘルペス)後神経痛
 帯状疱疹はウイルスによって引き起こされますが、感染後、すぐに発病するというものではありません。誰でも体内に持っていて、風邪をひいた時や疲労している時などに活動しはじめるものとされています。多くは、体や関節がだるくなり、その部分の皮膚にさわると敏感な感じがする、というような症状が最初にみられます。数日すると顔や体の神経の走行に沿って、赤いブツブツができ水疱になります。やがて水疱は黄色→褐色→黒と変色し約3週間で治癒。
 しかし、実はその後が問題で、治癒した人のうち約10%の人は、ブツブツのできた神経の走行に沿って激しい痛みが残るのです。これが帯状疱疹後神経痛。この病気は発病後数年も経ってしまうと、ペインクリニックといえども歯がたちません。神経ブロックによる早期治療こそが肝心です。急性期に適切な処置さえすれば皮膚も早くきれいに治りますし、神経痛に移行することはありません。
(3)顔面神経麻痺
顔面神経が麻痺して顔の筋肉がうまく動かせなくなる病気。顔面神経に栄養を与える末梢血管が収縮したための現象と考えられます。星状神経節ブロック療法が効果的で治癒例も多いです。
(4)多汗症
全身、または体の局所に異常に汗をかく多汗症。星状神経節ブロック療法を一定回数以上行えば、かなり改善されるでしょう。
(5)アレルギー性鼻炎
花粉症やハウスダストなど、アレルギー性鼻炎の症状を持つ人は、国民の1割とも2割とも言われています。免疫機能の正常な人はかからず、スギ花粉などの抗原に過剰に反応する人が苦しめられます。対策としては、抗原を体内に侵入させなければいいわけですが、これは現実的には難しい。そこで星状神経節ブロック療法で抗原が侵入しても抗体をつくらせないようにします。高い確率で、アレルギー症状が軽くなるでしょう。また花粉症の点眼薬にはステロイドが使われていることも多く、副作用が心配という人も多いはず。そうした方にも、星状神経節ブロック療法はおすすめしたい治療法です。
(6)メニエール病
不意に耳鳴りやめまい、難聴などの症状を伴う発作に襲われる病気。30歳代〜40歳代に多いメニエール病の特効薬はなく、一般的には鎮静剤や精神安定剤、点滴注射などの治療が行われていますが、完治は難しいようです。星状神経節ブロック療法が有効で、症状はだいぶ軽減されるでしょう。

このほか、アトピー性皮膚炎・リウマチ・高血圧症・パニック障害・いびき・肩こり・椎間板ヘルニア・胆石・チック症・偏頭痛・狭心症などなど、ペインクリニックの対象疾患はとても幅広いです。痛みでお悩みの方、まずは身近なペインクリニックの医師にご相談されるのがいいでしょう。ガマンしているだけでは、いつまでも「痛みを断つ」ことは難しいですよ。

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