各論;兵庫県整形外科医会の情報システム

兵庫県整形外科医会情報システム委員会
2009/4/24


総論;県レベルの情報伝達網の構築:総論もあわせてお読みください。

各論;各県の医療情報伝達網構築のために(兵庫モデル)
 当会は、1973年に発足、勤務医と開業医で構成されている。活動の停滞に苦慮していた2000年、メーリングリストとウェブサイトを構築して、情報の共有と伝達を高度化、高速化し、親睦と情報交換、医療連携に役立て、活動を活性化することになった。メーリングリストは、勤務医にターゲットを置き、医療機関の連携を目指した。大学スタッフ、公的病院の院長から勤務医、開業医まで、94名(24.7%)の参加を得、2000年6月にスタートした。
現在、メンバー数は207 名(45.4%)、そのうち勤務医は33名である。ほかに理事会、各委員会のメーリングリストが稼働している。ウェブサイトは2000年8月に開設、整形外科医療を啓発し、組織拡大を担った。
コンテンツマネージメントシステムを導入し、会員がそれぞれの専門を生かしてウェブ制作に参加できるようにした。メーリングリストとウェブサイトは連携して機能し、ウェブサイトの会員専用領域に設置された掲示板は、資料や画像をアップロードしたり、告知情報を書き込む事でメーリングリストに配信することができる。
 医療連携をシステムの主要な目的とし、メーリングリストには全会員が参加することが理想であるが、情報技術の進歩に取り残された会員も少なくない。またウェブサイトの各機能は、現在のところあまり利用されていない。メールやウェブを使うことができなくとも、医療や生活に困る事はない。医療を破壊する動きは、情報技術を駆使し加速している。それに応じる医療の現場は、情報技術の利用で遅れをとっている。
ウェブサイトとメーリングリストのごあんない


◆兵庫モデル
兵庫県整形外科医会の情報システム
兵庫県整形外科医会情報システム委員会2009年4月

目次
1. 情報化の夜明け
2. メーリングリストの立ち上げ
3. メーリングリストの効用
4. メーリングリストの拡大
5. ウェブサイトの開設
6. メーリングリストとウェブサイトの連携
7. 情報システムの運営
1) メーリングリスト
2) ウェブサイト
3) ドメイン
8. 問題点
1) メーリングリスト
2) ウェブサイト
3) 病診連携 ( 医療連携 )
9. 結語


1. 情報化の夜明け
 1973 年に開業医を中心として発足した当会は、大学スタッフ、病院勤務医の参加を得て、会員相互の親睦と連携、地域医療、学術活動、整形外科に関わる医療問題に取り組んで来た。
20 世紀も終わりになる頃、医療を取り巻く状況が加速度的に悪くなる中、当会の活動は長年変わりなく、変化への遅れが危惧されるようになった。また、時代は、インターネットを中心に、情報技術が進歩し普及しつつあった。
この頃、当会はまだ、会員への情報伝達をファクスによっていた。ファクスを受けられず、郵送のみとしていた会員もいた。
この時の会長が、医会活動の活性化に苦慮していたところ、情報技術に詳しい会員が、メーリングリストとウェブサイトを構築して、情報の共有と伝達の高度化、高速化を実現し、会員の親睦と情報交換に役立て、会員が様々な知識を共有し連帯感を深め、会員相互、医療機関相互で連携し、当会の活性化、ひいては医会活動の新しい展開につなげる事を提言した。

2. メーリングリストの立ち上げ
提案は実行に移された。提言者個人の努力で、構築作業が進められた。メーリングリストサービスは、後述するように iij を利用することになった。全会員にメールアドレスの確認のファクスを送り、94 名、会員の24.7% から参加の申し出があった。
メーリングリストは、開業医よりも、むしろ勤務医にターゲットを置き、第一に病診連携 ( 医療連携 ) の実現を目指した。そのために、県内二大学医学部の整形外科教授の参加を要請した。これに続き、大学の教官、公的病院の院長、副院長や部長から、一般勤務医、開業医まで、各職域からの参加があった。
2000 年 6 月にメーリングリストがスタートし、会内の情報システムにインターネットの技術を利用する取り組みが始まった。会長自らが最初のメールを投稿し、日常診療における色々な問題点、医療周辺問題、医会活動、医業経営、そして趣味についてなど、自由なテーマでメールを投稿するように呼びかけた。
メーリングリストの意味が分からない会員も多くいて、性急なスタートではあった。しかし、時代はさらに速く進んでいて、立ち止まることはできなかった。
最初の 1 ヶ月間で、約 200 通のメールが投稿された。同時に、理事会のメーリングリストも設置された。

3. メーリングリストの効用
メーリングリストは、会務の連絡、行政からの情報の伝達や、内外の学術講演会の開催情報の広告や聴講記、日常診療、特に保険診療や自賠責保険の相談、スポーツ大会への派遣医師の募集、JCOA からの情報や医療行政の情報、医学の話題、症例の相談や患者の紹介、そして趣味に至るまで、開設から2 年間で約1,600 通のメールが投稿された。
投稿者が一部のメンバーに偏る傾向は、当会でもみられたが、当初の2 年間で、50 名余のメンバーがメールを投稿した。
2002 年 4 月の診療報酬改悪の前後からは、JCOA からの情報をはじめ、会員へ情報を伝える件数が増えた。会務の連絡や会からの情報伝達は、ファクスで行っていたが、2003 年 3 月より、メーリングリストのメンバーには、メールで伝達することにしてファクス送信を停止した。これにより、年間のファクス通信費を約 60 万円削減することができた。
2002 年 4 月からの 2 年間、メールの投稿数は増え、約2,400 通のメールが投稿された。

4. メーリングリストの拡大
 メンバー登録数は、年間約 10 名ずつの増加をみた。新規入会者には、メーリングリスト参加を勧誘し、約半数がメーリングリストのメンバーになった。既存会員の中にメールアドレスを持って利用している事例を見つければ、メーリングリストに勧誘した。
当会では、インターネットの市民的な運用の精神から、強制的な加入という手段を採用していない。
開設から約 9 年経った2009 年 4 月末の時点で、登録メンバー数は 212 名、会員の 46.5% である。そのうち勤務医は 33 名で、4 名の大学教授をはじめ大学教官、公的病院の院長、副院長や部長などの参加がある。投稿されたメールは通算約 8,000 通を数える。
医会本体のメーリングリスト、理事会のメーリングリスト以外に、この情報システムを担当する情報システム委員会を含め、会内の三つの委員会でメーリングリストを構築している。

5. ウェブサイトの開設
 当会のウェブサイトは、2000 年 8 月、個人が契約するプロバイダのホームページ開設サービスで開設された。当会を紹介するとともに、広く一般に整形外科医療を啓発し、医療の情報を発信していくことになった。これとともに、当会の組織拡大も担うものであった。
開設当初から、兵庫県の地図で会員の医療機関の情報を提供する「みなさまの町の整形外科医」というページ ( http://hcoa.jp/list/ ) を構築し、会員相互および一般閲覧者の利便を図った。これが当会ウェブサイトの中心で最大のコンテンツである。
2003 年 5 月、独自ドメイン ( hcoa.jp ) を取得し、レンタルサーバーのウェブホスティングサービスを利用し、ウェブサイトを移転、新たに構築し、公開を始めた。
当会を紹介したり、整形外科医向けに当会入会を勧誘するページ、一般の閲覧者向け、および医療関係者向けの様々な情報を発信する領域を用意した。当会ウェブサイトで最もアクセスが多いのは、労働関連法規のページである。
これらとともに、アクセス制限をかけた会員専用の領域も設置した。

6. メーリングリストとウェブサイトの連携
ウェブサイトの会員専用領域には、いくつかの掲示板を設置し、資料や画像のファイルをアップロードしたり、掲示板に告知情報を書き込む事でメーリングリストに配信されるようなシステムを構築している。
これにより、重要な資料や告知事項は、掲示板に残すことができる。また、オンラインでの症例検討を行うこともできる。
契約している容量は、後にも述べるが 10GB である。


7. 情報システムの運営
担当理事 4 名、情報システム委員 5 名で運営している。

1) メーリングリスト
 メーリングリストは、2000 年の開設当初より、担当者一人の努力によって運営して来た。2003 年からは管理者がもう一人加わった。
使用しているメーリングリストのサービスは、iij のメーリングリストサーバサービスである ( http://www.iij.ad.jp/service/system/ML.html)。契約は担当者個人である。
iij は老舗であり、官公庁や企業のユーザーが多い。堅牢なシステム、太いバックボーンで定評がある。
初期費用 2,250 円、年間の基本契約料は 10,500 円、この基本契約で一つのメーリングリストに 1,000 アドレスを登録できる。5,250円で、ウィルスプロテクションサービスのオプションを契約している。
メール 1 通の最大容量は 10MB、複数の管理者( 最大 5 名 ) を置くことができ、添付ファイルやマルチパートメールの可否を設定できる。過去ログ( アーカイブ )は 2MB 保存される。9 年間の運用の間、サーバーの停止や輻輳は経験していない。
理事会、各委員会のメーリングリストは、次に述べるウェブホスティングサービスのレンタルサーバーに附帯するサービスを利用している。無料であるが、登録可能アドレスが 200 件と制限があり、アーカイブの機能がない。ウィルスプロテクションは無料で提供される。

2) ウェブサイト
 現在、ウェブホスティングは、NTT PC Communications のWebARENA SuiteXというサービスを利用している ( http://web.arena.ne.jp/suitex/ )。
 契約は担当者個人で、請求書・口座振替支払いコースで初期費用3,150円、月額料金 4,200 円という契約をしている。
WebARENA は、2003 年のサイト移転時において、容量、機能に優れるとともに、廉価であり、システムが堅牢でバックボーンの太さを誇っていたので選ばれた。容量は 10GB、メールアカウントは無制限で、メーリングリストも無制限に開設できる。各種 CGI、SSI のほか、Perl、PHPなどのスクリプト、データベースを使うことができる。6 年間の運用で、システム障害で困ることはなかった。
現在の当会のサイトは、トップページや一部のページを Xhtml手書きで制作している以外、PukiWiki で構築している。会員は、各自でID とパスワードを使って管理領域にアクセスし、ページを制作したりサイトを構築することが可能である ( Xhtml: htmlを eXtensible MarkupLanguage の仕様に準拠するように再定義したもの )。PukiWiki: http://pukiwiki.sourceforge.jp/?PukiWiki
手書き部分は、管理者が個人の努力で構築している。サーバーへのFTP の権限を持つのはこの管理者のみとしている。

3) ドメイン
ドメインネームは、株式会社国際調達情報 ( PSI-Japan ) のサービスを利用している ( http://www.psi.jp/ )。ここも老舗で信頼できる業者であり、費用も他社と比較して高いものではない。
hcoa.jp のような汎用 jp ドメインの場合、初期費用5,200 円、年間費用は4,800 円である。契約は担当者個人である。
DNS をはじめ、ドメインを管理するためのいくつかのサービスが提供され、十分すぎるものである。
ウェブとドメインで業者を分けているのは、契約当時、それぞれが最善の業者であると判断したとともに、業者を分ける事でリスクを分散するためである。


8. 問題点
1) メーリングリスト
メーリングリストに全会員が参加することが理想であり目標であるが、果てしない道のりに感じる。
1-a) パーソナルコンピューターを使うことができない
年齢に関わらず、パーソナルコンピューターを使うことができない、レセプトコンピューターやオーダリングシステムの端末を使うのがやっとというレベルの会員がいる。
1-b) インターネットを使うことができない
メールを使うことができない、メールに関する知識が乏しく、送受でさえ、スムーズにできない会員がいる。毎日のメールのチェックが面倒という会員も少なからずいる。
1-c) 情報化の流れに背を向けている
オンラインで情報を受け取るという事を受け付けられない、忌避する会員も多い。メーリングリストがそもそも嫌、インターネットに情報を発出する事を恐れる会員が少なくない。情報交換や対話はオフラインか電話、情報提供は郵送かファクスでしか受け付けられないという会員が、これも年齢に関わらずいる。
1-d) 情報技術の利用自体を嫌う
何度も勧誘のメールやファクスを送ったり、顔を合わせた時の直接の勧誘を行っても、拒否、忌避される事が多々あった。また、一度登録しても、配信エラーが続き、問い合わせても応じない、何回問い合わせても無視された事も多い。はっきり嫌だと拒否を通告されたこともある。嫌う理由は様々であろう。
1-e) メンバー数の伸び悩み
 開設から約 5 年の時点で、既存会員でメーリングリストに参加するメンバー数は、ほぼプラトーに達した。参加しない会員には、たとえメールアドレスを所持し、個人でインターネットを利用しているとしても、メーリングリストに参加する意向はみられなくなった。
1-f) 一斉同報ファクスサービスとの兼ね合い
 上述したように、2003 年 3 月にメーリングリストのメンバーには、一斉同報ファクスによる会務の伝達を停止したが、メーリングリストのメンバーリストとファクス送信者のリストの更新にラグがどうしても生じるため、ファクス、メーリングリストの登録リストから漏れてしまう、反対に二重になる会員が出る。そのため、重要な伝達事項は全員にファクスで配信するようにした。現在、重要な伝達事項は必ず全員にファクスで、そうでないものはメールのみという使い分けになった。全員がメーリングリストのメンバーになれば、この問題は解決する。

2) ウェブサイト
 何人もの会員が、それぞれの得意分野、専門を生かしてサイト制作に取り組むのが理想であるが、これも夢である。
2-a) コンテンツ制作
 コンテンツ制作はウェブサイトを維持する生命線である。初期には、志ある会員からの投稿を待ったが、数編のペーパーが寄せられただけだった。担当者が、個人の努力で情報を収集し、サイトを構築していたが、行き詰まった。そこで、PukiWiki というコンテンツマネージメントシステム ( CMS ) を導入し、会員が誰でもサイト構築、ウェブ制作に参加できるようにしたが、担当者以外の会員が利用した事例は、数件のみである。
2-b) 会員が閲覧しない
 掲示板に資料をアップロードするとともにメーリングリストに情報を流すことができるシステムを構築した。会員用エリアの掲示板システムは、症例検討に使うこともできる。患者の紹介の際の補助手段ともなり得る。しかし、診療報酬改定情報などの資料のアップロードや症例検討がなされた事は、ほとんど無かった。そもそも、自会のサイトを見た事がない会員が少なくない。ましてや掲示板を見て使おうとするところまで行く会員は少数であった。
2-c) 情報発信の必要性を感じない
国を挙げて、医師集団内からもバッシングされているのに、自から主張しない。誰かがやってくれるのを待つだけの会員がいる。
3) 病診連携 ( 医療連携 )
メーリングリストとウェブサイトは、病診連携 ( 医療連携 ) の手段として、紹介状、ファクス以上の可能性を秘めており、これを主要な目的の一つとして構築したが、そのために利用される事は、ほとんど無かった。


9. 結語
  医療を取り巻く状況の変化は、悪化を含めて加速し、情報技術の進歩と相まっている。医療を破壊する動きは、政府官公庁も、企業においても、情報技術を駆使した上にある。それに応じる医療の現場は、情報技術の利用で遅れをとっていて、その差は開くばかりである。
 情報は、下から、底辺から社会を構築するためにも、必要なものである。市民が連携し、社会制度を構築したり改革したりできる可能性をもたらす。
 医療も、日本社会も、市民の手による成熟した民主主義社会となるためには、個人個人が情報に適切に接し、十分に取り扱うスキルを身につける必要があり、インターネットを含めた情報技術は、その一手段である。インターネットを中心とした高度情報化社会が到来した現在、パーソナルコンピューターをはじめとした個人情報端末の利用、インターネット上の様々なサービスやリソースの利用は、医療のため、自分たちの生活のため、必要不可欠なものとなりつつある。
 しかし、現実には、メールやウェブを使うことができない事で、医療や生活に困る事は、実感としてはない。しかし、医療や生活を脅かすものは、情報技術を駆使して、拡大しつつある。それに気付かない人が、当会会員にも、少なくないだけであり、会員が医療に貢献できる一つの可能性は、まだ秘められたままである。


総論;県レベルの情報伝達網の構築