新刊書籍:骨と関節健康カルテ
新刊書籍:骨と関節健康カルテ
2000/01/28 update
前書き:
日本臨床整形外科学会では、骨と関節の運動器官が、ひとの心や身体の健康にいかに大切であるかを国民の皆様に知っていただこうと、10月8日を「骨と関節の日」と定め、毎年広報活動を展開しております。その一環としてこの度、書籍『骨と関節健康カルテ』を発刊いたしました。この書籍は東北大学整形外科教授、国分正一先生が平成8年9月より1年間にわたり、毎週朝日新聞地方版に連載されたものを単行本としてまとめたものです。この書籍の目的は、整形外科で扱う怪我や病気に関して正しく理解していただき、患者さんが無益な遠回りをしないで、適切な診断と治療が受けられることを願って書かれたものです。目次、内容の一部、順天堂大学名誉教授 山内裕雄先生の書評をご紹介いたしますので参考にしていただき、ご一読いただければ幸いです。

書評 骨と関節健康カルテ


国分正一 著
整形外科はわが国でも100年近くの歴史を経た。その間に整形外科医数は飛躍的に伸び、現在単一科としては、内科、外科についで第3の位置にある。しかし整形外科という科の内容は、まだ一般に正しく理解されているとは言い難いし、大学内でも医師会的にもいまだクラインファッファ扱いされているもどかしさもある。この際、整形外科の名称を再検討する必要もあろうが、ともかく整形外科が扱う領域を正しく理解してもらうPRが急務である。そのために、日本整形外科学会では数年前、「骨と関節の日」を創設し、日本臨床整形外科医会とともに啓発運動を精力的に行ってきた。しかしまだ道遠しの観がある。

本書は著者が平成8年9月から1年間余、朝日新聞宮城県およびその近県版に連載してきた「健康カルテ」に「脚のしびれ」・「脊髄腫瘍」・「感染症」などの項目を新たに加え、全編加筆編集されたものである。その内容が、整形外科啓発の良い資料になると判断した日本臨床整形外科医会が発行主体となり、金原出版から上梓された。医学出版社からの本としては、1,100円(+税)と比較的安価で、求めやすい。 とかく難しい表現をしがちなわれわれ医師は、素人にも分かる優しい表現で解説するのは不得手である。そこを著者、国分正一教授はじつに上手に乗り越えられた。それにはまず疾患についての正しい知識と経験が前提にあり、日本語に対してのこだわりがものを言う。その点で著者は最適任者であろう。

全50の各項目が2頁の見開きにマンガ入りで上手にまとめられている。まず、「骨と関節の診療科」で整形外科と整形外科医の解説から始まり、「関節の病気」「背骨と神経の病気」「高齢者の病気・代謝の病気」「けがと骨折」「子どもの病気」「子どもとスポーツ」「大人とスポーツ」「腫瘍と感染症」「骨と関節・新たな発展」の大項目に分けられている。重要な症状・疾患がほぼ含まれているし、関連疾患も含まれている。もちろん百科全書ではないから、珍しい疾患はない。これは本書の範疇ではなかろう。 「よく書けているな」と親愛なる国分教授の温顔を想いながら通読した。

ひとつひっかかった用語がある。腰曲がり(たごまり腰)である。私には「たごまり腰」は初耳である。横浜で生まれ、仙台で人生の大半を送っておられる著者なので、ついに宮城県地方方言のとりこになったかとニヤニヤしたが、著者に問い合わせると、確かにその地方の方言ではあるが、地方版の新聞であったので、あえて使ったとのことである。「たごまる」とは「こごむ」の意らしいが「た」がついていることで、田んぼにこごむという風景が想起され、方言には味があるなと思う。このような一般的な解説書で、治療についての記述は難しい。あまり手術に偏らない配慮がされているが、こと著者ご専門の脊椎疾患になると、かなり自信を持って手術を勧めているところがあるのに再びニヤニヤした。

本書の利用法。すでに日本臨床整形外科学会で今年の「骨と関節の日」の啓発資料としてマスコミ関係者に配布されたそうだが、開業の先生がたの待合室に常置して順番待ちの間に読んでもらう、などの利用法があろう。日本臨床整形外科医会のかたがたによる整形外科PRへの熱意には並々ならぬものがあることを、JCOAのインターネット会員にしてもらって驚いている。私などとやかくいうことなく、本書の実践的な利用法はすでにお考えのことと思う。そのような期待に十二分に応えられる良書であると、自信を持ってお勧めしたい。
山内裕雄 (順天堂大学名誉教授)


目次:(*印は内容紹介があります。)
1 整形外科と整形外科医

2 O脚と膝関節痛

3 股関節症 
4 肩関節と五十肩 
5 肘と手首の痛み 
6 指の痛みと変形 
7 足の痛みと変形 
8 慢性関節リウマチ 
9 首いた・肩こり・頭痛(*) 
10 手のしびれ 
11 手足のしびれ 
12 脚のしびれ 
13 ぎっくり腰 
14 慢性腰痛(*) 
15 腰曲り(たごまり腰) 
16 坐骨神経痛@椎間板ヘルニア 
17 坐骨神経痛A脊柱管狭窄症 
18 背骨のリウマチ 
19 脊髄腫瘍 
20 骨粗鬆症(*) 
21 高齢者の骨折 
22 床ずれ 
23 痛風 
24 長期血液透析による障害 
25 むちうち損傷 
26 交通事故と骨折 
27 脊髄損傷 
28 腕神経叢損傷 
29 手のけが 
30 子どもの骨折 
31 肘内障 
32 筋性斜頚 
33 脊柱側弯症 
34 先天性股関節脱臼 
35 内反足 
36 ペルテス病 
37 大腿骨頭すべり症・膝蓋骨脱臼 
38 成長痛 
39 脚長不同 
40 子どもとスポーツ@上肢の障害 
41 子どもとスポーツA下肢の障害 
42 子どもとスポーツB背骨の障害 
43 大人とスポーツ(*) 
44 捻挫と肉離れ 
45 アキレス腱断裂 
46 骨腫瘍 
47 軟部組織腫瘍 
48 癌の骨転移 
49 感染症 
50 整形外科の新世紀(*) 

内容紹介

9 首いた・肩こり・頭痛

首には第一から第七までの七つの頚椎(けいつい)という背骨があり、その上に頭がのっています。十八種類もの筋肉があって、後頭骨に付いたり、鎖骨や背中の肩甲骨に付いたりしています。それらの筋肉は運動神経によって支配され、バランスよく収縮して、うなずいたり、首をそらしたり、かしげたり、横を向いたり、回したりの動作ができます。さらに肩をつり上げる働きもしています。
一方、体の奥の痛みを感じる頚椎からの知覚神経は、首ばかりでなく、後頭部あるいは肩や、肩甲骨と肩甲骨の間にも及んでいます。したがって、いったん首筋の痛みやこりが生じると、やがて後頭部や肩甲骨の間にも広がって感じるようになります。
「首いた」の症状の特徴は、朝方はすっきりしてきわめて具合が良いのですが、日中机に向かって長時間細かい字を読んだりしていると首筋がこって痛くなります。そしてだんだんと後頭部にも痛みが広がります。さらに、肩がこってきて、自分の頭が重石(おもし)のように肩にのしかかっていると感じるほどになります。症状の変化で天気が悪くなるのがわかるという患者さんもいます。 目の症状もよくみられます。目がかすむ、物が二つにみえる、疲れやすい、目の奥が苦しい、眼鏡を新しくしても新聞が読めない、といった症状です。さらに耳鳴りがする、めまいがする、とまで訴えが広がります。 症状が長引くと、仕事に集中できない、今期が続かない、働く意欲がわかない、といったことになります。借金で首が回らないのもつらいでしょうが、痛みで首が回らないのも大変です。本人ばかりでなく、憂うつな顔をされますと周囲も暗くなってしまいます。
● 若い人も同じ症状
脊椎(せきつい)の医学が目覚しく進歩したにもかかわらず、原因は不明です。X線写真を撮られて「年のせいで頚椎に骨棘(こつきょく=とげのこと)が出ています。それで、首が痛いのです」と説明されると納得しやすいのですが、骨棘があれば必ず痛いというわけではありません。しかも、そういった変化のない若い人にも同じ首の痛みがみられます。
予防が大切です。同じ首の姿勢での根を詰めた仕事をするのを避け、定期的にスポーツをするように心がけてください。草木に目を向けながらの散歩でもよいでしょう。知らず知らずに首を動かすので、適度な運動になります。
痛みが出てしまったら、首いただけのときに適切な治療を受けてください。開業の整形外科を訪れますと、鎮痛剤や非ステロイド性の抗炎症(こうえんしょう)剤、筋肉の緊張を和らげる筋弛緩(きんしかん)剤が出されます。また、電気、ホットパックを用いた温熱療法と積極的な頚椎運動が効果的です。多くの人はそれで治ります。
長引いた場合には、後頭部直下の首筋に指先で押すと激痛が生じる部位があり、そこに少量の局所麻酔剤を注射するブロック療法が有効です。本来麻酔が切れれば症状の痛みがぶり返すはずなのですが、数日から一週間消えていて、それを二、三回繰り返しますと、ほとんどの患者さんで痛みが起こらなくなります。仕事をやめようとまで考えていた人が、痛みと憂うつさから開放されて生き返ったようだ、という話が少なくありません。
● 体の不調を知らせる
ただし、痛みは体の不調の信号です。首や肩の痛みが激烈で、両手で首を支えたくなる、痛みが首から腕や手へ走るといった場合は要注意です。頚椎の腫瘍(しゅよう)や椎間板ヘルニアが疑われます。熱があれば、細菌による化膿(かのう)を考えなければなりません。大きな病院の整形外科を紹介してもらって訪ねるとよいでしょう。


14:慢性腰痛

徐々に痛みが生じたり、ぎっくり腰の激しい痛みが治りきらずに長引いたものが慢性腰痛です。人は普段腰痛のことなど意識せずに過ごしています。しかし、いったん腰痛になると、痛みばかりか、憂うつな気持ちになって仕事や家事に打ち込めませんし、スポーツが楽しめません。
● 痛みは皮膚に投影
腰を前にかがめたり、振り向いたり、反らしたり、イスから立ち上がったりの動作で痛いとか、静かにしていても痛いとか、痛みの出方は様々です。ヒクッと痛い、重苦しい、あるいはだるいなど、感じ方もいろいろです。さらに、朝は感じないが、夕方仕事の後が痛い、天気が悪いとひどいといった具合に、変動があるのが普通です。
腰に腰椎(ようつい)があるからといって、痛みを腰椎に感じるわけではありません。皮膚に投影された痛みを感じるのです。その痛みの場所は、ほとんどが腰の付け根から骨盤の後ろのあたりです。少し片側にずれていたり、左右対称で広い範囲に感じたりします。中には尻(しり)たぶ、あるいは腿(もも)の後ろまで広がる場合があります。
● 難しい原因の診断
腰痛は種々の原因で起こります。全章で、腰椎どうしの間、腰椎と仙骨の間にバームクーヘンのような形をした椎間板(ついかんばん)があると説明しました。最も多い原因は、年をとるにつれて、その椎間板が変化することです。それを加齢変性といいます。
椎間板は、中央が髄核(ずいかく)といって、十歳代まではゼリー状です。それが、年齢とともに水分を失って硬くなり、縦・横に亀裂が入ります。さらに亀裂が多くなると、やがて椎間板はボロボロになってつぶれてきます。その結果、腰椎が前後・左右にぐらつき、反応性にとげができたり、後方にある椎間関節が壊れたりします。それで腰痛が起こるとされているのです。ただし、それらの加齢変化は腰痛のない人にもみられますから、本当の原因の診断は難しいといえましょう。
カイロプラクティックに行くと、「腰の背骨がずれているから痛いのだ。ずれを直したからもう大丈夫」とよくいわれるようです。しかし、普通、腰椎のずれは外からさわってわかるものではありません。また、たとえわかったとしても、押したりひねったりで戻せるものではないのです。それが詔子に、戻ったといわれた人の腰をX線写真でみますと、腰椎はずれたままなのです。痛みが取れにくければ、整形外科を受診するようにしてください。
● 特例を除き手術せず
整形外科での一般的な治療は、鎮痛剤や抗炎症剤の薬と湿布、腰を温める温熱療法です。電動装置で引っ張る骨盤けん引もよく行われます。痛みが強ければ、腰椎から骨盤を固定するコルセットが効果的です。
これらの治療で痛みが続く場合には、発生部位を突き止めることが大事です。椎間関節への局所麻酔剤の注射がよく効き、一回から数回の注射ですっかり痛みが取れて、治ってしまうことがあります。
痛みが軽ければ、肥満を防ぎ、痛みを起こす姿勢や動作を避ける日常生活での注意が大事です。さらに、体操や適度のスポーツで腰の筋肉を強化して、腰痛の再発を防ぎましょう。
欧米では腰痛だけの症状でも、金属のプレートを植え込んだりして腰椎を固定する大がかりな手術が行われていますが、日本の整形外科医は慎重に治療しています。脊椎が疲労骨折を起こした分離症や、大きくずれたすべり症といった特殊な患者さん以外は、手術をしません。


20: 骨粗鬆症

高齢化社会の進行につれ、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)への関心が異常なまでに高まっています。感じが難しく覚えにくい病名ですが、一度は聞いたり、読んだりした方が多いことでしょう。
● 新薬や予防対策
骨粗鬆症は鬆(す)の入った古い大根のように骨が粗くなった状態のことです。脆(もろ)くなっていて、咳(せき)をしたり、物を持ち上げたりしても脊椎(せきつい)が折れることがあります。
年をとれば、多かれ少なかれ骨は透けてくるわけで、昔も骨粗鬆症はありました。しかし、骨を専門とする整形外科ですら、ごく少数の医師が研究していただけでした。
それが最近注目されるようになった理由には、新薬がいろいろ開発されたことや、平成五年(1993年)以来、厚生省が高齢者の骨折を減らそうと、骨粗鬆症の予防対策を進めていることがあります。
骨は蛋白質のコラーゲン線維の周りに、カルシウムとリンの結晶である骨塩(こつえん)が付着してできたものです。骨は毎日作り直されていて、形成と吸収がバランスよく繰り返されて、一定の形と性質を保っています。骨を形成する細胞が骨芽細胞(こつがさいぼう)で、吸収するのが破骨細胞(はこつさいぼう)です。 骨粗鬆症の骨は若い人とどう違うのでしょうか。ビタミンDが不足したくる病や骨軟化症では、コラーゲン線維があっても付着する骨塩が少ないのです。一方、骨粗鬆症では、骨の組成は若い人と変わりなくて、骨の形成と吸収の収支のマイナスが長い年月続いた結果、骨の量が少なくなっているのです。
● 二十歳前後にピーク
骨の形も変わりません。骨の構造は、外側が緻密な皮質骨(ひしつこつ)と内側の軽石のような海綿骨になっています。骨粗鬆症では断面で見ると、主に海綿骨の骨の量が減り、ヘチマたわしのように骨組みが細くなります。そうなれば骨が折れやすくなるわけです。
骨料は二十歳前後にピークとなり、その後ゆっくりと減少します。女性は男性より長寿ですが、骨の面では不利です。妊娠中に胎児にカルシウムを分けてやりますし、閉経後には女性ホルモンが低下して、骨量が急激に落ち込みます。それで、女性は男性よりはるかに骨粗鬆症になりやすいのです。
● X線で診断
診断はX線写真で、まず脊椎の骨折があるか、次に脊椎の海綿骨が透けてみえるかをみます。さらに、最近発達したX線を使う装置で腰椎(ようつい)の骨量を測ります。若い人の骨の何%ぐらいであるか、数字で知ることができます。手首や踵(かかと)で図る簡易な方法もあります。
いろいろなところで、骨量測定の検診が行われています。検診の会社も参入し始めました。検診で骨粗鬆症といわれても別に心配しないで下さい。恐ろしい病気と思っている人が多いようですが、骨が折れなければ、痛みはありません。
カルシウムを多く含んだものを食べ、牛乳をどんどん飲みましょう。大豆、中でも納豆が骨を増やします。年齢とともに足腰が弱くなると、転んで大腿骨(だいたいこつ)を折ることがよくありますので、散歩、運動につとめて、機敏性を保ちましょう。
整形外科医が専門ですが、このごろは骨折がなければ、婦人科医や内科医も治療するようになりました。活性型ビタミンDやビタミンK、あるいは骨に作用するホルモンが処方されるでしょう。進行が止まり、少し骨が丈夫になります。ただし骨折を予防できるほどに有効であるか、まだわかっていません。


43:大人とスポーツ

三、四十年前まで、スポーツをする大人はほとんど大学生か、ノンプロ、プロ選手でした。エコノミック・アニマルよろしく「働け、働け」の会社では、スポーツをする余裕など限られた人たちのものであったわけです。それが、今では老いも若きも、生活の質(QOL)の面からスポーツを楽しむようになっています。
大人といっても、運動能力、体力が二、三十歳代と中年、そして高齢者では明らかに違います。男女差、個人差も無視できません。それぞれに見合ったスポーツの種類、頻度が大事です。過度のスポーツは大人でも四肢や脊柱(せきちゅう)の障害が生じます。また、骨折や靭帯(じんたい)損傷といった外傷の起きやすいスポーツがあります。
● 多い膝の靭帯断裂
若い成人で目立つ外傷は、膝(ひざ)の関節の中にある前十字靭帯(ぜんじゅうじじんたい)の断裂です。サッカーやスキーでの接触や転倒で膝をひねって切るだけでなく、バスケットやバレーボールで急にストップしたり方向転換したりでも切ることがあります。関節の中に血液がたまってきて、膝がぐらつき、歩いていて膝折れしやすくなります。
スポーツを続けたい場合には、腿(もも)の後ろにある筋肉の腱(けん)を切り出して束にして、切れた靭帯の代わりをさせる再建術が必要です。細い関節鏡を関節の中に刺してのぞいて行いますので、手術の痕(あと)がほとんど残りません。
昔のスキーの外傷は足首の周りの骨折が多く、スキー靴が改良されると靴の上端での下腿(かたい)の骨折や膝の靭帯損傷に代わりました。
最近はスノーボードが若者の間でブームです。ストックを使うスキーと違って、上肢や胸郭を先に雪面に打ち付けます。それで手や肘(ひじ)、肋骨(ろっこつ)の骨折が多くなり、背骨を折ったりもします。滑り方、転び方の教習とともに、スキーヤーとの接触を回避するマナーの順守が必要です。
● 中年は肉離れ注意
中年では、ラグビー、サッカー、バスケットボールといった、ほかのプレーヤーと体が接触するスポーツ を続ける人は少なくなり、代わってバレーボール、テニス、野球、ソフトボール、ゴルフが多くなります。肉離れとアキレス腱断裂が目立ちます。
ほかに、アキレス腱は、繰り返す過度の負担で、腱自体あるいは周囲に炎症を起こすことがあります。アキレス腱炎あるいはアキレス腱周囲炎です。赤く腫(は)れて、押すと痛く、つま先立ちで痛みが強くなります。スポーツの中止と湿布で治療し、場合によって腱の周りにステロイド剤の注射が行われます。
意外なものは、ゴルフのスイングによる肋骨の骨折です。開業の整形外科を受診してください。息を吐き出して縮めた胸郭に幅広の布製バンドを巻き付けます。ゆるんだらその都度締めて、一カ月もすると骨折は固まります。
● 内科の治療優先も
高齢者にとって、スポーツは「年寄りの冷や水」どころか、健康の維持増進、疾病予防に効用があります。中には、百歳テニスやベテランズ陸上競技大会に参加している人もいます。スポーツが続けられることは、健康体の証(あかし)です。
公園などでジョギングを楽しんでいる高齢者をよくみかけます。高齢者は心臓病や高血圧、糖尿病などの内科の病気が多くなります。もしあれば、それらの治療が優先です。
一方、股関節(こかんせつ)や膝関節に年齢からくる変形と痛みが効率に生じます。整形外科医の診察を受けて、関節症があるか、どのくらいの運動量が良いかなどを相談されることを勧めます。


50:整形外科の新世紀

スウェーデン、ルンド大学のリドグレン教授が世界中の関連諸団体に呼びかけて、二十一世紀の最初の十年である二〇〇〇年から二〇一〇年までを「骨と関節の十年」として、キャンペーンを展開することになりました。関節、脊椎疾患、骨粗鬆症、外傷などの筋・骨格系障害の予防と治療について、いっそうの啓蒙と研究を推進しようとするものです。日本整形外科学会はもちろんですが、世界保健機構(WHO)と世界赤十字委員会も参画しています。
● 目覚しい発展遂げた整形外科
振り返って、今世紀、整形外科は目覚しい発展を遂げました。昔はコルセットやギプス、あるいはちょっとした手術しか行えず、子供の背骨や手足の変形を苦労して治していたのでした。それが今では、例えば、すり減った股関節や膝関節を人工関節に取り換えることができます。関節の中に関節鏡を挿入し、テレビに映しながら行う手術が盛んです。顕微鏡を使って、切断した指をつなげることができます。また、曲がった背骨をまっすぐにしたりすらできます。新世紀を目前にして登場した、磁石で撮るMRI(エムアールアイ)のお陰でX線写真だけの場合より診断がはるかに易しくなりました。整形外科は生活の質(QOL)を保証する重要な診療科となったのです。
● 発展の陰に課題あり
 しかし、問題も少なくありません。まず、発展した整形外科の恩恵を先進国以外では受けることが難しいのです。特に、子供の病気が依然として少なくなっていません。ちなみに、日本では、国民皆保険制度のお陰で、誰でも治療が受けられます。
 第二に、日本では、高齢化社会が進展し、骨粗鬆症による骨折が急増しています。加齢による関節や脊椎の変性疾患も多く、七十五歳以上の超高齢者の手術も稀でなくなりました。
 第三に、新しい診断と治療にマンパワーと莫大な設備投資、人工材料が必要です。また、整形外科が国民の多様なニーズに応えられるようになったため、治療を受ける患者さんが多くなりました。医療の本来の目的からは理想的なのですが、必要な医療費が年々大きくなってきています。
 第四に、総医療費抑制政策が診断と治療の内容を制限する可能性が出てきています。
● 二十一世紀に活躍する整形外科
 内科や外科は臓器別といった具合にいくつもの診療科に分れようとしていますが、整形外科は一つの科のままでいくはずです。整形外科は大学病院、市中病院、開業の三つのグループに大きく分けられます。ただし、今以上に効率的な医療が必要になりますので、三者の役割分担がいっそうはっきりし、しかも多様化していくことでしょう。
 特に、開業の整形外科医は整形外科の総合医です。リウマチや骨粗鬆症、スポーツ障害、学校保健を含めた広い範囲をカバーしており、来年、二〇〇〇年に介護保険が導入されますと、その分野も担当することになりましょう。彼らは全整形外科医の約四分の一に当たる五千人の会員の日本臨床整形外科医会を組織していて、新世紀では、整形外科医療の発展の一翼を担うに相違ありません。
 骨と関節の病気の治療には看護婦、理学療法士、作業療法士などとのチーム医療が欠かせません。他方、柔道整復や鍼灸、カイロプラクティックが代替医療として広く用いられています。法で決められた持分を守って、国民の健康増進に貢献して欲しいものです。
 二十一世紀には、分子生物学、遺伝子科学の成果が整形外科の治療に活かせるようになるはずです。たとえば、骨形成蛋白(BMP)をつきの遅れた骨折部に注射するとつきが早まるとか、遺伝子導入を行うと生まれつき折れやすい骨が丈夫になる、といった夢がかなえられることになりましょう。 

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日本臨床整形外科学会

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