交通事故のけが 健保が使えます


平成12年8月17日(木)朝日新聞全国版「くらし」欄についての抗議文その後

前回の抗議文への、朝日新聞より、回答を頂き、再度抗議いたします


朝日新聞社 広報部長  大狭敏孝 様
日本臨床整形外科医会 理事長  安部龍秀
副理事長 山下恵代 担当理事 竹林俊一郎


   拝啓 初秋の候 貴社には益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
  さて、8月17日(木)貴社全国版「くらし」欄“交通事故のけが、健保が使えます”に対して、本会より9月4日に抗議文を送付したところ、9月14 日付でそのご返事を頂きました。しかし、その回答では、「“交通事故で健保は使えない”は誤解である。健保を使った方が有利。自賠責を使うかの選択は自由である」という内容でした。
 これでは、“日本を代表する貴紙”が国民に誤解と偏見を与えかねないので、再度抗議致します。平成元年の日医新基準の採用にあたって、日医、日本損害保険協会、自動車保険料率算定会なる三者協議会での協定で、「交通事故診療は、特別な理由がない限り健保使用は行わない、労災保険に準拠した自由診療とする」などの紳士協定を取りかわし、今後も遵守していく、ということで合意しました。

 加入者が自分で保険料を支払い、公的資金(税金)の補填援助も受けている健康保険での診療は、自分が蒙った疾病や傷害治療に対する“相互扶助精神の保険”であり、第三者行為である災害医療にはふさわしくないものです。従って、事業所での労働災害には労災保険が、加害者のある交通事故には自賠責保険が設定されているのです。
 しかし、交通事故で被害者の過失が100%、或いはそれに近い場合や加害者が不詳だったり、支払い能力がない場合には、被害者救済のため、厚生省は健康保険を使用してもよいと認めました。ただし、健保使用の場合、保険者に申し出て“健保使用承諾”をとって診療を受け、その診療費は保険者が求償することになっています。

   この厚生省の“恩情ある健保使用見解”を逆手にとって「交通事故に健保が使えます」と推奨することは、三者協議会の紳士協定にも違反する暴挙そのものであります。健保を使っても被害者が治療費を支払うのでないから、被害者の損にも得にもなりません。損保会社が儲け、得をするだけです。そのことが全く触れられていません。国民共通の財産(国民から強制的に納めさせた健康保険料と国民の税金からの補填)というべき公的医療保険から、損保会社の利益のために資金を持ち出すのは如何なものでしょうか。

 貴社の論理でいくと、交通事故治療に皆が健保を使い出したらどうなりますか。利益を得るのは損保会社だけで、国民は損をすることになります。そして、やがては自賠責保険も任意保険も不要になります。この問題が持ち上がる背景には、政府(厚生省)や保険者がはっきりと見解をうち出さないのと、損保会社がそれにつけ込むからです。社会の公器と自認されている新聞こそが損保会社の肩を持つのではなく、正しい報道をする義務があると考えます。新聞の報道に対しては、読者は正しいものだと信じています。“貴社は日本有数の大新聞社”であるだけに、この誤解を解消してください。  ご一考をお願い致します。
              敬具

以上の文は以下の「朝日新聞からの抗議文に対する回答」への再度の抗議です。
追加で上記の抗議への回答も書いておきます


                               2000年9月22日
日本臨床整形外科医会
理事長 安部 龍秀 様
担当副理事長 山下 恵代 様
担当理事 竹林俊一郎 様
                            朝日新聞社広報室長
                                 大峡 敏孝

拝啓 再度のお手紙を拝読させていただきました。8月17日付くらし面の記事について、貴会から寄せられましたご指摘に対しては、当広報室から14日付で貴会宛に送付した書面で説明させていただきました。本社の見解であり、ご理解ください。
貴会の考え方については確かに承りました。ご指摘の趣旨を参考に、これからもより正確でわかりやすい記事を書くよう心がける所存です。今後とも、朝日新聞をよろしくお願い申し上げます。
                                 敬具

2000年9月14日 日本臨床整形外科医会理事長    安部 龍秀様
担当副理事長 山下 恵代様 担当理事   竹林俊一郎様
朝日新聞社広報室長 大狭 敏孝

 拝啓 医療関係者の方々は、日々、交通事故による傷病者の診療に献身的に当たられていることと思います。さて、4日付でいただきました貴会からの文書を拝読いたしました。まず、ご返事が遅くなりましたことをお詫び申し上げます。ご指摘の件につきましては、以下のようにご説明させていただきます。

なお、貴会からは朝日新聞東京本社編集局長・秋山耿太郎、本社記者・佐藤純あてにも同様の文書をいただいております。本社の見解は、当広報室が代表して社外に示しております。ご理解のほどよろしくお願いいたします。

1について
 時間に関係なく発生する交通事故に伴う傷病者の発生に対応するためには、人員の配置や、施設・設備の整備などの面で、救急医療のコストが他に比較して高くなる面があるのは、ご指摘の通りです。逆に、交通事故による傷病であっても、患者が通常の診療時間内に外来通院できるケースなど、他の傷病の診療と費用の面で大きな違いがない場合も多数あることも事実です。とくに「事故は健保には使えない」と信じている読者も多く、その誤解を解くことが記事の主眼であり、健保の使用を一方的に奨励したものではありません。治療費が高額になれば、当然患者負担が増すことを考えられます。患者の立場に立って、こうした基本原則を踏まえておくことが肝心であると考えております。

2について
 8月17日付記事では、自賠責診療報酬基準案の水準の妥当性については論評しておりません。労災基準に沿ってモノは1.2倍、技術は1.44倍とのデータを示してますが、それが不当に高いとの認識もありません。ただ、「保険適用はできない」と不正確な知識を患者に与えるのは、いかがなものか、とは考えております。

3、4について
 ご存じのように、自動車損害賠償責任保険は、自動車損害賠償保障法に基づき,自動車の運行による人身事故の被害者を救済するために設けられた保険制度です。交通事故による傷害事故の場合、治療に関する費用、休業損害、慰謝料などが支払いの対象になります。自賠責保険が、事故の被害者の救済の面で大きな役割を果たしている点については異論はありません。しかし、同時に労災では健保が使えませんが、交通事故の場合、第三者の行為による事故も健保の保険給付の対象に含まれます。所管の厚生省も、自動車による保険事故も健保の保険給付の対象となる旨通知していることを、8月17日付記事でも説明させていただきました。高額な治療費で、なお過失割合が高い場合には、健保を使った方が有利であることが言えます。緊急避難的に健保を使うというご指摘ですが、それは健保も使えるし、自賠責でも処置が可能という両方の選択肢を被害者が吟味できることは、けっして無駄ではないと考えます。

5について
 8月17日付記事は、「交通事故によるけがの診療には健康保険を使えない」との誤解が一部残っていることから、読者に法制度に関する正確な情報を提供するために企画したものです。なお、事故の過失割合や医療費の額などに応じて、健康保険を使う場合と使わない場合で差が生じる、との専門家のコメントを記事の中でご紹介しております。貴会からは保険財政についてのご指摘もございました。一般的に、保険財政の問題を議論する際には、給付と負担のバランス、給付水準、経済情勢、他の公的保険などを幅広く検討することが重要と考えます。さらに、健康保険、自賠責保険はともに強制保険であるという社会的意味や、自賠責保険が「ノーロス・ノープロフィット原則」の下で運営されていることも視野に入れて議論を深めることが重要ではないでしょうか。
   以上、ご指摘の項目に沿ってご説明させていただきました。
 なお、8月17日付記事に関して寄せられた読者の皆様からのご意見、ご感想を踏まえまして、9月7日付くらし面において、改めてこの問題に関する記事を掲載しております。健保の届け出が必要であることは承知しておりました。本社をはじめ、複数の健保組合に確認しましたところ、請求を拒否することは出来ず、形式的な問題であるとの回答でした。これが誤解のもとになっているうえ、現場では請求権そのものをめぐって混乱があることをその後知り、改めて記事化した次第です。なお、今後は、ご指摘の趣旨を念頭におき、より正確でわかりやすい記事を書くよう心がける所存です。
 ご承知の通り、この欄は、読者との双方向を意識して作られております。これまで、医療関係者からも数々の指摘をいただき、紙面で紹介させて頂くなどの試みを進めています。今後も、参考となるご意見をいただけますようよろしくお願い申し上げます。敬具